「年収の壁」 103万円の壁  106万円の壁 130万円の壁

2024-11-13

先日の衆院選において、国民民主党が「手取りを増やす!」というわかりやすいスローガンで大幅に議席を増やし、今、与野党間協議では「103円の壁を突破できるか」が焦点になっています。

しかし、103万円の壁が178万円に引き上げられたとしても、配偶者の年収が130万円を超えてしまうと第3号被保険者の資格を失い、配偶者に社会保険料の負担が発生することで、逆に手取りが減るという問題は残ります。

そこで、「現状」「103万円の壁が178万円に引き上げられた場合」を比較し、妻の年収が103万万円129万円131万円178万円300万円のそれぞれで、世帯の手取がどう変わるのかをシミュレーションしてみました。

つぎの一覧表をご覧ください。 クリックして下さい⇒ 103万円の壁が178万円に引き上げられた場合の世帯手取りの比較

この表によりますと、年収の壁が103万円から178万円に引き上げられることで、世帯の手取りは確実に増えることがわかります。

ただし、社会保険料の130万円の壁の影響は相変わらず解消されていません。

例えば、「現状」では妻の年収が129万円から131万円に2万円増えたにもかかわらず、逆に、世帯の手取りが592円から577万円に15万円減っています。これは妻に社会保険料の負担20万円が発生したためです。

同様に、「103万円の壁が178万円に引き上げられた場合」でも、妻の年収が129万円から131万円に2万円増えたときの世帯の手取りは612万円から594万円に18万円減っています。こちらも、妻の社会保険料の負担20万円が発生したためです。

税務上の103万円の壁を178万円に引き上げれば、世帯の手取りは増えますが、社会保険料の130万円の壁が立ち塞がり、配偶者の働き控えの問題は残ります。配偶者以外の扶養家族、例えばアルバイトをしている子供などの働き控えについては税務上の壁103万円を引き上げることで解消されるでしょうが、配偶者の働き控えについては、税務上の年収の壁と同じ金額まで社会保険料の壁を引き上げないと効果はありません。

さらに言えば、従業員数51人以上の会社に勤めている人が週20時間以上働き、かつ年収が106万円以上になると、社会保険の加入義務が発生する、いわゆる「106万円の壁」働き控えの大きな要因となっています。

働き控えを解消するためにはこの「106万円の壁」を引き上げるなど、基準を甘くすることなのですが、厚労省が長年やって来たことはこの壁の基準をより厳しくすることであり、昨今では企業要件年収要件を外し、中小零細企業であっても週20時間以上働けば社会保険の加入義務が発生するという方向で法改正の議論が進められているようです。厚労省の基本スタンスは「第3号被保険者制度」を撤廃し社会保険の加入者を増やすことで、年金財源を確保すると同時に、働き控えも解消していこうとするものです。財務省もまた、未納率の高い国民年金の財源に税金が投入されている現状を憂慮し、「第3号被保険者制度」を撤廃し社会保険に移行していくべきだと考えています。よって、税務上の103万円の壁については上げる方向で話は進んでいますが、社会保険に関する106万円や130万円の壁は下げる方向か又は撤廃の方向で話が進んでいるのが現実です。いわゆる増税の方向ですね。

ところで、「第3号被保険者制度」を撤廃し、国民年金から社会保険に移行するとどうして増税になるかと言いますと、①約700万人いる第3号被保険者が国民年金保険料を支払うことになるから、②働き控えをしていた第3号被保険者が新たに勤務したり、その労働時間が増えることで社会保険料の徴収額が増えるから、③労働者が負担する社会保険料とほぼ同額の社会保険料を事業主が負担することになるから、④定額の国民年金保険料と異なり社会保険料は給与に比例して上がっていくから、⑤徴収事務を事業主に課すので徴収漏れが少なくなるからなどの理由があげれます。

今回、「税務上の103万円の壁の引き上げ」で大きな減税が期待されていますが、財務省や厚労省が簡単に野党の減税策を受入れるとは考えにくく、減税の見返りとして、国民民主党が唱える「働き控えの解消」というスローガンを逆手に取って、「第3号被保険者制度の撤廃」という増税の本丸に切り込んで来るかもしれません。納税者としては、国民民主党が唱える「手取りを増やす政策」が官僚たちによって骨抜きにされないよう、注意深く見守っていく必要があるのではないでしょうか。

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