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大谷翔平 パイオニアとしての宿命

2023-08-25

アメリカ現地、8月23日、シンシナティ・レッズとのダブルヘッダーの1試合目、1回裏に第44号本塁打を放った直後の2回表、投手としてマウンドに立った大谷翔平は腕の違和感を訴え途中降板した。にもかかわらず、大谷はダブルヘッダーの2試合目に打者としてフル出場した。その姿を見て、「大谷の途中降板は大したことはなかったのか」とほっと胸をなでおろした矢先、エンジェルスのGMペリー・ミナシアンが試合後の記者会見で語った言葉は衝撃的だった。「大谷は右肘靱帯を損傷しており、今期残り試合は登板しない」と。

この記者会見を受けて、「なぜ、2試合目に出場させたのか」という批判がネット上で相次いだ。もしこれと同じことが日本ハム時代の大谷に起これば、栗山監督がダブルヘッダーの2試合目に大谷を出場させることはまずなかったであろう。

しかし、大谷を2試合目に出場させた球団側の判断を一概に批判することは出来ない。というのも、これはアメリカと日本の文化の違いから来る見解の相違だと言えるからだ。アメリカは個人主義の国であり、自己責任の国である。自分の命を守るために市民が拳銃を所持する国であり、自分を守るのは自分しかいないと考える国民性だ。ミナシアンGMは大谷が出場したいと言ったから出場させたと言う。エンジェルスのフィル・ネビン監督も普段から、大谷が出場したいと言えばそれを最大限に尊重し、ダブルヘッダーの1試合目に登板した直後の2試合目にでも打者として出場させている。我々から見れば球団が大谷に無理をさせているように見えるが、大谷が出場したいと言ったからには、それを言った大谷に責任があるというのがメジャーの考え方なのである。自分の体を守るのは球団でも監督でもなく自分自身であり、無理して出場して怪我をしても誰も責任を取ってくれない。

大谷のストイックな精神や「フォア・ザ・チーム」の考え方は、アメリカの個人主義の考え方、さらにはアメリカ商業主義の考え方の前では、自分を守るという意味では甘かったと言わざるを得ない。アメリカ流のフォア・ザ・チームの考え方は自分が犠牲になってまでもチームのために貢献することではないのだ。そして、「個人経営者」の選手たちは、アメリカ商業主義の中で、自分の商品価値をいかに高め維持していくかを考えている。無理して、怪我して、自分の商品価値を下げることは、彼らの経営理論にはないのである。現に、エンジェルスのマイク・トラウトやヤンキースのアーロン・ジャッジは少しでも体調が悪かったり、怪我をしたら遠慮無く休むではないか。それは自分の商品価値を下げないためなのだ。

しかし、大谷は昨日まで、全128試合中126試合に出場し、たった、2日しか休んでいないのである。しかも、今年はWBC出場という特殊事情も重なり、いつも以上にハードワークを強いられた。7月以降の腕のけいれんや腰痛は、体が悲鳴を上げていた証拠であり、誰の目から見ても体を酷使し過ぎていることがわかる。ただ、今年のエンジェルスは、8月前半まではポストシーズン出場の可能性があり、トラウトなどの主力選手がいない中、大谷はその性格上チームの勝利のために休むことができなかった。本来であればもう少し休養を取るべきだったが、大谷の責任感がそれを許さなかった。その結果、彼は自分の商品価値を大きく損ねてしまったのだ。しかも、フリーエージェント直前の最悪のタイミングで。

彼の日本人的な責任感の強さを良しとするのか、郷に入っては郷に従えで、アメリカ的なドライな個人主義を取り入れるべきだったのか、野球観や人生観にかかわる問題なので何とも言えないが、すべてはプロである彼が選択したことなのである。

ただ、彼を擁護するならば、彼はメジャー史上初めて、本格的な二刀流を体現しているパイオニアであり、パイオニアだからこそ、答えの無い壁にぶち当たっているのである。二刀流の体力的限界、なかんずく、体力の消耗が右肘靱帯にどう影響するかなんて、エンジェルスのGMや監督がわかるはずもなく、大谷自身でさえ、その明確な答えを持ち合わせていないだろう。特に昨シーズン、怪我をすること無く157試合に出場し、「規定投球回数」と「規定打席数」を同時に達成したがために、大谷だけは不死身であるという変な思い込みが、周りにも大谷自身にもあったことは否めない。今振り返れば、もっと休養を取るべきだったと言えるが、それは結果論であり、今回の怪我は、大谷が二刀流のパイオニアであるが故に避けて通れなかった「代償」であり、「パイオニアの宿命」として受入れるしかなかったことなのかもしれない。

藤井聡太、史上初の8冠独占を目指して 

2023-08-05

とうとう、史上初、8冠独占の挑戦権を得た藤井聡太。豊島九段との「王座戦・挑戦者決定戦」は159手に及ぶ、逆転に次ぐ逆転の死闘であった。

午前9時に始まった対局は、夕食休憩を挟み藤井がリードを広げていたが、105手目、藤井の1六香で形勢が怪しくなり豊島が逆転。

その後、両者秒読みとなり一進一退が続くが、118手目、豊島の3四玉で一気に藤井が有利になり再逆転。

そこからは藤井が手堅い手の連続で勝利を手元に引き寄せたかに見えたが、134手目、豊島が敵に勝負を預けるような手、7八と金を指した直後、秒読みに追われた藤井が慌てて3三歩と打ってしまい形勢は再々逆転。この時、時計の針は既に夜9時に迫っていた。

どちらも持ち時間を使い切り、1分将棋のピリピリした緊張感に包まれた関西将棋会館の御上段の間。そこには歴代永世名人たちの掛け軸が飾られている。

木村十四世名人の「天法道」、大山十五世名人の「地法天」、中原十六世名人の「人法地」、そして谷川十七世名人の「道法自然」の四幅である。この四幅は「人は地に、地は天に、天は道に、そして道は自然に法る」と、四幅で一つの意味を為し、「人はただ、自然に法り生きていけばいい」という意味があるらしい。では勝負に生きる棋士たちにとって、「自然に法り生きる」とはいったいどういうことなのだろうか。逆転に次ぐ逆転の死闘を演じる藤井と豊島の対局を見ていて、自然に法った指し手とは、自然に法った棋士の姿勢とはいったい何なのかを考えさせられる。

さて、勝負は、134手目以降、コンピューターの評価値的には豊島がリードを保ちながら、一進一退の攻防が続づいていたが、藤井の6七桂馬に対して豊島が指した150手目6五玉と玉が横に逃げる手が結果的には敗着となった。6五玉は一見自然な手に見えたが、コンピューターは5四玉と玉を引く手を最善手に挙げていた。5四玉であれば、まだまだ豊島のリードが続くと評価していたのだ。しかし、それはあくまでコンピューターの評価。12時間を超える死闘の中で、しかも秒読みに追い込まれた人間の判断力には限界があるということだ。コンピューターは、藤井の次の手を、6六歩以外はすべて藤井が大逆転されると予測した。果たして藤井はその最善手を指すことができるのか。1分将棋という緊迫した中で、その最善手6六歩をきっちりと指し切った藤井は流石であった。

こうして、12時間を超える大熱戦は159手目、藤井の4五龍に、豊島が投了し終局となった。

とても見ごたえのある一局で、一見、自然に見える指し手が実は敗着だったという、勝負の皮肉さと非情さを感じさせる熱戦であった。そして、藤井、豊島という将棋界の頂点に立つ二人でさえ、極限状態ではミスをしてしまうんだということ、将棋という勝負は人間がミスをするからこそ面白いのだということを改めて感じさせてくれた。

ミスをするから面白いとは、必死で指している棋士達には失礼な言い方だが、将棋は先手と後手が初手からミスをせず、「自然な手」を指し続けて均衡を保っていくゲームであり、どちらかがミスをするからこそ勝負が決するゲームなのである。よく「逆転の妙手」という表現が使われるが、一手を指して評価値が劇的に上がるような「逆転の妙手」は無く、評価値が動くときは必ずミスをしたときなのである。もちろん、「羽生マジック」のような、ある一手が相手のミスを誘うような意味での妙手はあり得るが。要するに、将棋の醍醐味は、どんなミスが出るのかを期待することであり、ミスの前後が最もドラマチックな場面なのだ。

このように、棋士にとって将棋とは、ミスを宿命づけられた非情なゲームなのである。御上段の間のあの四幅の掛け軸は、そんな非情な勝負に没頭する棋士たちに、優劣の均衡を保つ「自然な手」を指し続けることが棋士としての究極の目標であるということ、そして、「自然な手」を指すことこそが最も難しいことであるということを静かに語りかけているのではないだろうか。

さて、8月31日から始まる永瀬拓矢との「王座戦・五番勝負」は、史上初の8冠独占が掛かった、将棋界最大の注目シリーズとなる。藤井聡太によって、レジェンド羽生善治を超える大偉業は果たして達成されるのか、今から楽しみでならない。

大谷翔平はベースボールを世界のスポーツに変える

2023-08-01

先日、大谷翔平は、ダブルヘッダーの1試合目に完封勝利をし、そして、その40分後に行われた2試合目に2打席連続の本塁打を放った。これはメジャー史上初の快挙である。

大谷がメジャーリーグで活躍し始めてから、何度、「メジャー史上初の快挙」という言葉を耳にしただろう。

現時点での、大谷の本塁打数は両リーグ最多の39本で、年間60本ペースで量産している。しかも、投手として9勝を挙げ、奪三振数は既に150を超えている。これらの数字を見ただけで、彼がとてつもないことをやっていることは誰の目にも明らかだが、彼の成績をもう少し詳しく見ていくと、そこに並ぶ数値の凄さにわれわれは更に驚愕させられる。

そこで、2023年7月31日時点での、大谷翔平のスタッツを見てみよう。

【打撃成績】

打率.305(4位)、本塁打数39(両1位)、打点81(2位)、得点81(2位)、安打数120(3位)、塁打数268(両1位)、三塁打数7(両1位)、四球67(1位)、出塁率.407(1位)、長打率.680(両1位)、OPS1.087(両1位)、打席数472(4位)、盗塁数12(22位)

【投手成績】

防御率3.431(11位)、勝利数9(7位)、奪三振156(3位)、勝率.643(10位)、奪三振率11.64(2位)、被打率0.185(両1位)、完封1(両1位

(※カッコ内の順位はアメリカンリーグの順位。ただし、両とあるのは両リーグ合わせた順位)

まず打撃成績だが、両リーグ合わせての1位が、本塁打数39、塁打数268、三塁打数7、長打率.680、OPS1.087の五部門、アメリカンリーグ1位が四球数67、出塁率.407の二部門、合計7部門で1位なのだ。アメリカンリーグのみならず、両リーグ30チーム、レギュラー打者約270人の頂点に、5部門にも渡り君臨しているのが大谷翔平という男なのである。しかも、打者を評価する上で最も重視されている数値、OPS(出塁率と長打率を足した数値)が両リーグを通じて1位なのである。OPSはチームの勝利に最も貢献した打者をできるだけ正確に表す数値として、メジャーリーグではかなり以前から採用されている。投手である大谷が、最高の打者の証OPSで、両リーグ1位というのが、本当に、本当に凄いことなのだ。ちなみに、あのイチローがシーズン最多安打262を記録した2004年のOPSでさえ、0.869に過ぎない。

これだけの数値を残せば、打者単独でも十分MVPに値する成績だが、二刀流の大谷はその上に、まだ、投手成績を加味しなければならない。

投手成績は、今年、ピッチクロックの導入や牽制球の制限、更には極端な守備シフトの禁止など、投手に不利となるルール変更が行われたせいか、勝利数15、防御率2.33を記録した昨年ほどの数値ではないが、しかし、どの部門もほぼ10位以内であり、その中でも奪三振率11.64の2位、そして、被打率0.185の両リーグ1位は出色の数値である。被打率とは投手がヒットを打たれる率で、数値が低いほど良い。被打率が0.185ということは、つまり、10人の打者に対して1.85人にしかヒットを打たれないということである。両リーグ30チーム、約180人の先発投手の中で最もヒットを打たれる確率の低い投手が大谷なのだ。

大谷の凄さは、打者としても超一流、投手としても超一流の成績を同時に残していることである。しかも、ほとんど休養日を取らず、ほぼフル出場でである。

昨年、ヤンキースのアーロン・ジャッジが62本塁打、131打点、打率.311、OPS1.111でMVPを獲得したが、私は大谷が残したある記録の方が、よっぽど価値が高いと思っている。それは、「規定打席数」と「規定投球回数」の両方を同時に達成したことだ。これは、メジャーリーグが近代野球になった1901年以降初めての快挙である。

「規定数」に到達することがなぜ重要かというと、もし「規定数」に到達していないと、打率や防御率など、「率」を評価対象とする成績が公式に認められないからである。いくら打率4割を打っていたとしても、「規定打席数」に達していなければ「4割打者」として認められないし、首位打者になることもできない。

メジャーリーグでの「規定打席数」は502打席であり、これは全試合最低3.1回打席に立たなければ到達できない数字である。「規定投球回数」は162回であり、これは毎試合6回をきっちり投げて27試合に登板しなければ到達できない数字である。この二つの記録はもちろん怪我などで長期離脱すればほとんど手の届かないデリケートな記録である。

ちなみに、大谷は昨シーズン、投手として28試合に先発し、166回投げているが、「規定投球回数」についてはぎりぎりの達成だった。これは仕方のないことで、大谷は先発ローテンションの中軸として、中5日又は中6日の登板ペースを守らなければならず、このペースで行くと年間28登板が限界である。この28登板の中で162回以上を投げるためには、すべての試合で少なくとも平均6回以上を投げなければならい。分業制が進んだ今のメジャーリーグでは先発投手に100球の球数制限があり、また、早いイニングで打ち込まれ降板することも加味すれば、今のシステムで162回以上を投げるのは至難の業であることがわかるはずだ。しかも、大谷は先発登板以外の試合では打者として129試合にも出場しているのだ。出場機会が増えればそれだけ怪我のリスクも高まるわけで(ちなみに、今シーズンのエンジェルスは現在、トラウトを始め17人が故障者リストに入っている惨状である)、そんな状況の中で、打者としてエンジェルスの主軸を任されながら、この162回という「規定投球回数」を達成したのは、大袈裟ではなく、奇跡としか言いようが無い偉業なのである。

もちろん、ジャッジの成績はMVPに値する素晴らしいものではあるが、ナショナルリーグに目を転じれば、過去に本塁打を60本以上打った選手はバリー・ボンズを始め複数人いる。大谷が記録した「規定打席数」と「規定投球回数」の同時達成は、あのベーブ・ルースでさえ到達しえなかった唯一無二の記録という意味で、もっと評価されてしかるべきものと言わざるを得ない。しかも、大谷は昨シーズン、15勝(4位)、219奪三振(3位)、防御率2.33(4位)の投手成績に加え、本塁打を34本(4位)も放っているのだから。

おそらく、大谷は今年も「規定打席数」と「規定投球回数」の両方を達成するだろう。もうそれだけで十二分にMVPなのだが、7月末時点で、上記のようなとんでもないスタッツを叩き出している今シーズンは、もうすでにメジャーリーグのMVPという枠を遥かに超え、メッシやフェデラー、さらにはレブロン・ジェームズやタイガー・ウッズなどの世界的アスリートと肩を並べる存在になっているのではないだろうか。そして、大谷翔平に対する高い評価は大谷個人だけに留まらず、ベースボールの世界的普及につながっていく可能性がある。世界的に普及しているサッカーやテニスなどに比べ、アメリカの影響力が強いカリブ海地域やアジアなど、一部の地域にしか普及しなかったベースボールを、「世界的なスポーツ」へと導いてくれるのが大谷翔平なのではないかと期待する。

その大きな契機となるのが、このオフシーズンでの大谷翔平の「歴史的契約」である。先日NBAのジェイレン・ブラウン選手が、5年で3億400万ドル(約428億円)のNBA史上最高額の契約をしたが、大谷には是非、10年10億ドル(約1,400億円)という、今までどのスポーツ界でも為しえなかった、スポーツ史上最高額の契約を果たしてもらいたい。そしてそのインパクトが世界中の子供たちに届き、大谷翔平に憧れる子供たちが増え、ベースボールが世界中に普及し、WBCなどの国際大会がサッカーのワールドカップに匹敵するぐらいのイベントになってくれたらと思う。

何だ、この映画は!?「RRR」を観てきました!

2023-07-11

(ネタバレにご注意ください)

先日、遅ればせながら、インド映画「RRR」を観てきました。とにかく、とにかく凄かったです!!  上映時間は3時間もあるのですが、最初から最後まで全く飽きることなく、スクリーンに釘付けでした。

特に冒頭、主人公の一人、ラーマが、何千人もの群衆の中に独り飛び込んで暴徒の首謀者を追い詰めるシーンの迫力はえげつなく、ラーマという主人公の人間離れした不死身さに圧倒され、このシーンで一気に「RRR」の世界観に引き込まれました。

それ以降も、ド迫力なアクションシーンの連続で、まったく息つく暇もありません。ただ、「RRR」を観て強く印象に残った点は、アクションシーンの凄さだけでなく、インド映画特有の歌やダンスのシーンが随所に散りばめられ、今まで観たどのアクション映画とも違う世界観を持っていたことです。そして、この独特の世界観を纏ったド派手なアクションシーンが、3時間にも渡り怒涛の如く押し寄せてくるので、脳と心臓のどきどきが止まらず、観終わった時には得も知れぬ高揚感に包まれるのです。とにかく「凄い!」としか言いようが無く、まさに、「何だ!この映画は!?」なのです。

実は、私が「RRR」を観ようと思ったきっかけは、「RRR」が来年、宝塚歌劇団・星組の演目に採用されることが決まったからです。ただ、噂では「RRR」が、とんでもないアクション映画だと聞いていたので、「えっ!本当に宝塚で舞台化できるの?」と俄かには信じられませんでした。だから、宝塚首脳陣が「RRR」のどこに興味を持って、何の目的で採用したのかを、「RRR」を実際に観て確かめたかったのです。

そして、観終わった上で、私なりに勝手に推測した、「RRR」の採用理由は次の三つです。

一つ目は、来年が宝塚歌劇110周年にあたるので、話題性のある作品をやりたかった。

二つ目は、アカデミー賞・歌曲賞にも輝いた「ナートゥダンス」を宝塚屈指のダンサー、礼真琴と暁千星が在籍する今の星組でやりたかった。

三つ目は、友情、使命、愛という「RRR」のテーマが宝塚歌劇にぴったりだから。

確かに「RRR」の構造自体が「宝塚的」で、ダンスシーンや歌い上げるシーンが多く、エンドロールでは宝塚と同じくフィナーレダンスまで付いています。このフィナーレダンスは宝塚歌劇に特徴的な演出手法の一つで、芝居の内容が喜劇であろうが悲劇であろうが、その出来が良かろうが悪かろうが、最後に出演者全員が芝居とは一線を画して歌い踊ることで、観客を一種独特の幸福感に導く効果があるのです。悲劇なら観客の悲しみをクールダウンさせ、ハッピーエンドのお話なら観客の幸福感をより一層膨らませてあげるといった具合です。喩えるなら、フルコースの最後に出てくるデザートのようなもの。「RRR」のフィナーレダンスにもこの宝塚のフィナーレダンスと同じ効果があるのではないでしょうか。

また、「RRR」は「虐げられる者たちの怒り」や「友情と使命のどちらを選ぶべきかの葛藤」をテーマにした勧善懲悪の物語で感情移入しやすく、ラストシーンへ向けての「カタルシス」が醍醐味の映画ですが、「宝塚歌劇」もまた「身分や立場の違いによって生じる試練を乗り越えようとする男女の愛」がテーマの悲恋物や恋愛成就型の「カタルシス」を味わえる作品が多いのが特徴で、「RRR」と「宝塚歌劇」は、その扱うテーマの面でも類似性が高いのかもしれません。

宝塚がどのようなシステムで上演作品を選定するかは全くわかりませんが、一つ言えることは、作品選定の担当者がこの「RRR」という映画の持つ圧倒的なパワーとその普遍的なテーマに感情を揺さぶられ、心を動かされたことだけは間違いないでしょう。

ただし、「RRR」がどれだけ話題性があり、宝塚との類似性が高く、宝塚での舞台化が魅力的だからと言って、「RRR」で展開されるアクションシーンを宝塚の舞台で再現できるかどうかはまた別の問題です。印象に残っているどのシーンを取っても生の舞台で再現するのは難しそうなものばかりです。例えば、「映画の冒頭、ラーマが何千人もの群衆の中にたった一人で飛び込んで首謀者を捕まえる格闘シーン」、「ビームが猛獣を捕獲しようとして獰猛な虎と対峙するシーン」、「鉄橋の火災事故で炎の渦に巻き込まれる少年をビームとラーマがロープにぶら下がって救出するシーン」、更に「トラック一杯に猛獣を詰め込みイギリス総督府を襲撃するシーン」など、数え上げたらきりがないのですが、スクリーンから伝わるこれらシーンの物凄い迫力は、VFXやワイヤーアクションなどの特殊効果、さらにはダイナミックなカメラワークや編集技術など、舞台では採用し難い、映画ならではのテクニックの賜物だからです。

そして、これらのアクションシーンがあるからこその「RRR」とも言えるわけで、このアクションシーンをバッサリ省略してしまっては、もう「RRR」ではありません。「神は細部に宿る」と言われますが、アクションシーンのひとつひとつが「RRR」の独特の世界観を形成していて、それこそがこの映画の感動の核心であり、それが損なわれてしまっては、「RRR」を宝塚の演目に選んだ甲斐がありません。

果たして、宝塚のスタッフはどんな手を使って、「RRR」の世界観を維持しつつも、この大スペクタクル・アクション映画を宝塚の舞台に合わせ再構築していくのでしょうか。

とにかく、「RRR」の舞台化については興味が尽きませんが、宝塚歌劇にご興味ない方も、「RRR」自体はめちゃくちゃ面白い映画なので、是非一度、映画館で観てください。そして、その勢いで、宝塚歌劇にも興味を持ってくれたら嬉しい限りです。

働き方のバリエーション

2022-10-30

コロナ禍はわれわれに様々被害をもたらしましたが、しかし、反面、働き方のバリエーションを増やしたという点では、良い面もあったのではないでしょうか。

特に、家事や育児や介護などで職場に出勤しづらい人や、ハンディキャップをお持ちの方々の働く可能性を拡げました。

弊所も、コロナ禍をリモートワークで乗り切った時期があり、その時には設備投資にお金が掛かりましたが、今ではそのインフラが役に立っています。

コロナ禍がもたらした功罪のうち、「功」の部分で最も大きかったことは、このようなインフラ整備が進んだことと、なによりも、経営者の意識が変わったことではないでしょうか。

個人的には、オフィスで和気あいあいと仕事をする方が好きですし、実際に通勤して社員同士がコミュニケーションを図ることは大切なことだと思いますが、いろんな働き方ができるんだと気付かされた点については、コロナ禍の「功」の部分として評価できるのではないかと思います。

コロナ禍の前から、フレックスタイムを導入している企業は多いですが、今回のコロナ禍によって、より一層、働き方、雇用の仕方がフレキシブルになったのではないでしょうか。

初めてタカラヅカを観劇してきました!

2022-06-09

皆さんはタカラヅカにどんなイメージをお持ちでしょうか?

 私は生まれてこの方、タカラヅカを全く見たことが無く、たまに取り上げられるテレビの映像から、「派手なメイクと衣装で着飾った男装のレヴュー」といったイメージしか持っていませんでした。女優で言うと鳳蘭や大地真央、演目で言うとまさに「ベルサイユのばら」というイメージです。いわゆる、女性が楽しむエンタメであり、わたしのような男性にはとんと縁のない世界だと思っていました。

 しかし、3か月ほど前にテレビで放送された宝塚花組の「はいからさんが通る」という芝居を何気なく観ていて、「あれっ、意外に面白いかも」と思ったのです。芝居の後に行われる大階段を使ったフィナーレやパレードなど、タカラヅカ独特の演出手法にある種のカルチャーショックはありましたが、それ以上に、「男装のレビュー」といった自分が今までタカラヅカに持っていた先入観を覆すような感動を覚えたのです。

その感動の理由を自分なりに考えてみると、芝居自体も素晴らしかったのですが、最も印象に残っているのは、主人公花村紅緒を演じた「華優希」の体当たりの演技だったと思います。表情、動き、せりふ、歌がとにかくエネルギッシュで、コミカルで、目を離さずにはいられない独特の熱量が伝わってきたのです。彼女が醸し出す空気感こそが、私のタカラヅカに対する先入観を払拭したのだと思います。

 華優希の演技に魅了された私は、他のタカラヅカの演目もこんなに面白いものなのかと思い、過去に公演されたタカラヅカの芝居やショーをテレビやネットで探して観てきましたが、「やはり生の舞台を観ないことには始まらない」と思い、多少の抵抗感はありましたが、このたび、宝塚大劇場で公演中の、花組の「巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~」という芝居と、「Fashionable Empire」というショーの二本立てを観劇することにしたのです!

 

以下の感想は素人のたわごとと聞き流して欲しいのですが、「いやぁ~、これは凄いことをやっているなぁ!」と改めて驚かされました。

 公演の流れは、1時間35分の芝居のあと、35分の休憩があって、そのあと55分のショーがあるのですが、絢爛豪華な衣装、ダイナミックな舞台装置、巧みな照明、芝居に寄り添う生バンドの演奏、そしてとにかくエネルギッシュなタカラジェンヌたちの演技。約3時間の公演があっという間でした。

 まず驚かされたのが、ダイナミックに動く舞台装置です。私は2階席でしたので、舞台全体を見下ろすことができ、立体的に舞台装置が動く様子をじっくり観察することができました。例えば、回転舞台が回ることで素早い場面転換をしていくのですが、その回転舞台にもいくつかの仕掛けがあり、その上に設置された大きな建物が、回転舞台が回転していく中でその中に沈んで行き、跡形もなく消えてしまうのです。かなり大きな建物が、しかも舞台が回っているにも拘らずですよ。

 また、生バンドの演奏も素晴らしかったです。タカラヅカはカラオケではなく「生バンド」なんですね。宝塚大劇場は、舞台と客席の間に「銀橋」という渡り廊下があって、バンドはその「銀橋」と舞台の間のオケピットで演奏するのです。ミュージカルやオペラでは当たり前のことなのでしょうが、よくここまで淀みなく演技と演奏をシンクロさせることができるものだなと、指揮者と演奏者の技術力に感服しました。

 しかも、音響が凄くて、歌唱や効果音が観客の鼓膜だけでなく全身を震わせるのです。特に、今回、芝居ではラプリュナレド伯爵夫人を演じた音くり寿の歌声は、芝居、ショー共に圧巻でした。

 タカラヅカの強みは、このような舞台装置や音響設備、生バンドを常備している「宝塚大劇場」などの専用劇場を持っていることではないでしょうか。専用劇場があるからこそ、出演機会が増え上達も早いでしょうし、また、脚本や演出、舞台装飾や演技構成は、「宝塚大劇場」の高いポテンシャルを前提に作ることができますので、自分たちのやりたい表現がかなり高いレベルで実現できるでしょうし、さらには、外部劇場ではやりにくい挑戦的な試みもできるのではないでしょうか。

 そして何よりも、公演を通して最も印象的だったのは、舞台上のタカラジェンヌたちのパワーとエネルギーの熱量でした。

 トップスター柚香光の少女漫画から飛び出してきたようなビジュアル、トップ娘役星風まどかの清々しい歌声、更に、次から次へと衣装チェンジをしていくショーのスピード感など、芝居やショーの見どころはたくさんありましたが、根底に流れている感動の源は、すべてのタカラジェンヌたちから発せられるあふれんばかりのエネルギーだと思います。とにかく全員が全力を出し切ろうと振り切れていて、そのエネルギーの熱量がビンビンと客席に伝わってくるのです。しかも、この日は一日2回公演でしたので、私が観終わった1時間半後には、彼女たちはまたこれと同じ演目を演じるというのです。「今と同じテンションでもう一度同じことをするのか?」と、とても信じられませんでした。

 タカラジェンヌから伝わるこのエネルギーの熱量は、私が初めて観た「はいからさんが通る」の華優希の体当たりの演技と共通するものだと思いますが、このエネルギーはどこから生み出されるのでしょうか?

 これはあくまで個人的な考えですが、タカラジェンヌはデビューしたあとも、退団するまでずっと生徒であり、研究生の立場にあるらしいのですが、このシステムが、彼女たちの演技に対する姿勢を謙虚にし、その謙虚さが逆に力強いエネルギーを生み出しているように思えるのです。自分はまだ半人前の研究生だとわきまえているからこそ、舞台上では初心者のごとく一生懸命、全力で演技することができ、その一生懸命さが客席に強いエネルギーを伝えるのではないでしょうか。一方で、彼女たちも舞台人として、「舞台の真ん中に立ちたい」とか、「トップスターになりたい」といった大きな夢が少なからずあるはずで、謙虚さの内側には秘めたる強い思いがマグマのように燃えたぎっていると思うのです。「はいからさんが通る」の華優希に感じ、今回、舞台を生で見て、すべてのタカラジェンヌに感じた底知れぬエネルギーの熱量は、彼女たちの謙虚さの裏返しであり、もしかしたらこの謙虚さとエネルギーのダイナミズムが、宝塚歌劇が長年培ってきた「タカラヅカ文化」の真髄なのかもしれません。燃えたぎる情熱のマグマが謙虚さと言う「品格」の衣裳を纏ったとき、タカラヅカ独特の空気感が醸し出され、客席は「幸福感」に包まれるのではないでしょうか。

 更に言うならば、今回、わたしが花組の公演を劇場で観て強く感じたことは、彼女たちは決して未熟な生徒でも研究生でもなく、紛れもなく「プロ」であるということでした。それは言わずもがなで、幼いころからバレエやダンスを習い、「宝塚音楽学校」という狭き門をくぐり抜けた精鋭が、そこで2年間みっちりと鍛えられ、「宝塚歌劇団」入団後は、年間4公演、200を超える舞台をこなし、日々、観客を目の前にして歌い、踊り、演ずるわけで、その経験値は若くして豊富で、研究生とは名ばかりです。その「プロ」であるタカラジェンヌたちが謙虚に、かつ向上心を持ってたゆまぬ努力を惜しまないからこそ、人の心を打つ演技ができるのでしょう。

 そんな彼女たちを支えるのが、これまた一流の演出家や作曲家、振付師であり、さらに、衣装、装置、道具、音響、照明、演奏などの熟練したスタッフが高い技術と情熱を注ぎこんで一つの舞台を作り上げていくのですから、その「エンターテイメント」としてのクオリティたるや相当なもので、私が「はいからさんが通る」や生の舞台を観て感動したのも無理のないことかもしれません。しかも、私が観劇したのは初日から間もなかったのですが、これだけ完成度の高い芝居とショーをたった1か月余りの練習で仕上げてしまうのですから、タカラジェンヌとスタッフのポテンシャルたるや恐るべしです。

 

この歳になって、タカラヅカの魅力に気付かせてくれた「はいからさんが通る」の華優希には、とても感謝していますが、惜しむらくはもう少し若いころに知っていたらなぁとも思います。ただ、タカラヅカというエンタメが今まで女性客にほぼ独占されて来たというのが不思議でなりません。男性でも十分楽しめるコンテンツだと感じたからです。タカラヅカ初心者の私が言うのもなんですが、もし、食わず嫌いでタカラヅカをご覧になったことが無い方は、是非一度観劇してみて下さい。芝居、ショー、パレードと続くフルコースは、「これでもか!」と感動のてんこ盛りで、味わったことの無いカルチャーショックと共に、きっとあなたを幸せな気持ちにしてくれることでしょう。

インボイス制度の本質は「増税」です

2022-02-27

いよいよ、来年、令和5年10月1日から「インボイス制度」が開始されますが、インボイス制度の真の目的が消費税の増税であること、更には「登録番号」による納税者の一元管理であることに皆さんはお気付きでしょうか?

経営者の皆様とお話をしていても、実はインボイス制度が消費税の増税であることにまだお気付きでない方は多く、殆どの経営者は「8%や10%の複数税率を正確に計算するためにインボイス制度が導入される」という程度の認識しか持たれていません。

インボイス制度が「消費税のステルス増税の装置」と言うことができる所以は正にそれで、事業主が増税と気付かないうちにいつの間にか増税に従わざるを得ない状況が作られているということです。

なぜ、増税になるかと言うと、今まで免税事業者であった事業者が課税事業者にならざるを得なくなるように仕組まれているからです。

インボイス制度が導入されると、インボイス以外の領収証では、消費税の仕入税額控除ができなくなります。例えば、売上が330万円、仕入が220万円の取引の場合、売上の消費税30万円から、仕入の消費税20万円を控除した、10万円の消費税を国に納めることになります。ところが、その仕入先がインボイスを発行することができない事業者であれば、仕入の消費税20万円を控除することができず、売上の消費税30万円をまるまる納税しなければならなくなります。となると、インボイスを発行できない事業者からの仕入は消費税を余分に納税することになり損なので、インボイスを発行できる事業者からの仕入に切り替えていくこととなり、インボイスを発行できない事業者はどんどんと淘汰されていくという理屈です。

では、インボイスを発行すればいいではないかと言われるが、インボイスを発行するためには「適格請求書発行事業者」として国に登録しなければならず、「適格請求書発行事業者」に登録するためには、消費税の課税事業者になる必要があるのです。となれば、今まで免税事業者として消費税を免除されていた事業者も消費税を納税しなければならず、この消費税の納税がまさに増税ということです。

例えば、建設会社の下請けや孫請けをしている一人親方などがまさにその対象であり、たとえ課税売上高が1,000万円以下の免税事業者であっても、元請の建設会社に取引を継続してもらうためには、課税事業者にならざるを得ないということです。

ただし、元請会社の方も優越的地位を利用して、下請けに対して消費税分の値引きを要求したり、取引を停止したりすると「独占禁止法」「下請法」に抵触することとなり、罰金や懲役刑になる恐れがあります。よって、免税事業者と取引をしている課税事業者は、仕入税額控除ができない分の消費税を自らが被らなければならず、課税事業者であっても少なからず影響はあるということです。

また、インボイス制度による増税は建設業界などの事業者同士の取引に限らず、一般消費者を相手にしている小規模の飲食店や小売店にも影響があります。例えば、企業が接待で飲食店を使う場合、インボイスを発行できない飲食店は自ずと避けられることになります。企業によってはインボイス以外の領収証は経費精算しないというような取り決めをするところも出てくるかもしれません。飲食店のオーナーが「最近客足が減ってきたな」と感じているその原因が実はインボイスを発行しなかったことにあったという笑えない話が現実のものとなるのです。そうすると、一般消費者を相手にする飲食店や小売店もインボイスを発行することができる課税事業者にならざるを得なくなり、今まで納める必要のなかった消費税を納めなければならなくなります。

更に言えば、インボイス制度は、今まで所得があるのに申告していなかった事業者の炙り出しにも効果を発揮します。例えば、ホストやホステスの中には確定申告をしていない人達も多いと聞きますが、店側としては彼らに支払う報酬を仕入税額控除したいわけで、そうなるとホストやホステスも「適格請求書発行事業者」として国に登録せざるを得なくなり、無申告というわけにはいかなくなるわけです。

要するに、インボイス制度とはあらゆる規模のあらゆる業種が従わざるを得ない、「消費増税の装置」であるということです。しかも、すべての「適格請求書発行事業者」に法人番号をベースにした「登録番号」が付与され、国税庁で一元管理されます。また、その「登録番号」はすべてのインボイスに記載しなければならず、今後、税務調査における反面調査の大きな武器にされるのは間違いありません。

インボイス制度の真の目的が、「消費税の増税」とともに、「国による納税者の一元管理」であるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

AIに負けた将棋界に見る税理士業界の未来

2019-06-15

奇天烈な比較と思われるかもしれないが、AIによって税理士業界がどう変化していくのかを、全く畑違いではあるが、将棋界がここ数年繰り広げてきたコンピューターとの戦いから予測してみたいと思います。

まず、将棋界がここ数年でAIに受けたインパクトは計り知れないものがありました。20年ほど前まではコンピューターがプロ棋士に勝てるなんて誰も想像していませんでした。しかし、現在は、プロ棋士がコンピューターに勝てることの方が少なくなりました。ある棋士によるとコンピューターとプロ棋士の差は角1枚ほどになっているとのことです。角落ちでも勝てないとは相当の大差です。

実は、コンピューターがプロ棋士の実力に肉薄し始めた10年ぐらい前に、このような心配がありました。「もしコンピューターが棋士より強くなったら、プロ棋士の存在意義がなくなってしまうのではないか?コンピュータより弱い人間同士の対局を誰が見てくれるのか?もし最強棋士羽生名人がコンピュータに負けたらもうプロ棋士の地位は地に堕ちてしまうのでは?」といった心配です。

故米長九段が若かりし頃に言ったとされる逸話で「兄貴は頭が悪かったので東大に行った。自分は賢かったので将棋指しになった」というのがあります。それほど棋士になるのは難しいし、将棋界とは天才たちの集まりであるという認識が旧来からあったのです。それがコンピューターに負けてしまうなんて棋士なんて大したことないのでは、という評価に変わりはしないかという心配ですね。

しかし、現状の将棋界はどうでしょうか。藤井聡太という天才の出現や、羽生九段の永世七冠達成などのビッグニュースはありましたが、コンピューターの進歩が将棋界をダメにしたということは全くありませんでした。

逆に、棋士がコンピューターを将棋を研究するためのツールとして利用することで、新たな定石や新手が次々と生み出されています。

また、将棋を見る我々にとっても今まで以上に興味深く将棋を観戦することができるようになりました。タイトル戦などの中継でどちらの棋士が優勢なのかをコンピューターが評価してくれるのです。先手がプラス500点とか1,000点とかという評価値が画面に出ますので将棋初心者でもどちらが有利か即座に分かるのです。プラス300点なら少し有利、プラス500点なら優勢、プラス1,000点なら勝勢といった具合にコンピュータの評価値はとても分かりやすい指標になるのです。

ただ素人ですので、評価値がなぜプラス300点なのか、500点なのかがわかりません。やはりそこでもっとも重要なのが、プロの解説です。プロの解説がなければ将棋の面白さも半減します。コンピューターが強すぎてプロの解説者でさえなぜコンピューターがプラス評価を出しているのかわからないという場面もありますが、それでも我々アマチュアにしてみれば、人間による解説がどうしても必要です。しかも解説者にもいろいろな棋士がいて人間味あふれる解説をしたり、ユーモアたっぷりの解説をする棋士もいます。そういった解説者の個性もこみで楽しんでいるのが現状です。

プロ棋士は実力的にはコンピューターに負けましたが、その負けを素直に認め、逆にコンピューターを将棋界にとって有用な武器に切り替えていったのです。

 

いま、税理士という職業もAIの進化により将来なくなるかもしれない職業にカテゴライズされているようです。もともとはオックスフォード大学のオズボーン教授の論文が巷に流布されたものですが、影響力は結構大きく、税理士は将来性のない職業と認識され若者から敬遠され始めているらしいのです。

でも正確には、それは「税理士」ではなく「税務申告書作成者」という職業のことだそうです。

ここで注意しなければならないのが、税理士の仕事と「税務申告書作成者」の仕事は違うということです。「税務申告書作成者」の仕事はおよそ「税務申告書作成ソフト」が行っているような仕事です。これに関していえば、すでに国税庁のホームページの確定申告書作成ソフトで毎年申告している納税者がかなりいます。毎年ほとんど変わらない申告内容で比較的簡単な申告であれば、税理士に頼まなくても、納税者だけでできてしまいます。

しかし、我々税理士が日々行っている仕事は、このような単純な申告書の作成業務だけではありません。会社経営者からの相談は、単に法人税の節税に関することにとどまらず、消費税や個人の所得税、相続税や株価評価、場合によっては社会保険や助成金、労働問題や法律問題と本当に多岐にわたります。

例えば、法人税の節税が逆に所得税や相続税の増税になったり、社会保険料の増加につながったり、こっちを立てればあっちが立たずといった状況がしばしば出てきます。

一つの税務だけにとどまらず、様々な税法や法律の相互関係を考慮し、その中でどのようなアドバイスがクライアントにとって最も有効なのかということを考えていかなければなりません。

AIの情報処理能力はずば抜けて凄いと思いますが、そのような様々な前提条件を加味していくことはまだまだ難しいと思われます。何も考えず闇雲に情報を入力しても正解が得られるとは限りません。AIにどのように情報を与えるかが最も重要です。それは一般の納税者にはできません。また、AIが出す答えが本当に正解かどうかを判断することも一般の納税者にはできません。

将棋に解説者が必要なように、税務にも解説者が必要なのです。

税理士が経営者から最も期待されていることは、重要な経営判断を経営者に寄り添ってアドバイスしていくことです。AIは有効なツールですが経営者に寄り添うことまではできないでしょう。

現場にいる私の実感ですが、AIが税理士の仕事を奪うことはできないと思います。逆にAIを使いこなせる税理士が引っ張りだこになるのではないでしょうか。

若者諸君、コンピューターと法律に興味のある皆さん、ぜひ税理士を目指してください。きっと面白い時代になりますよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

大谷翔平 サイクルヒット達成!!

2019-06-14

大谷翔平がサイクルヒットを達成した。

イチローも松井秀喜もできなかった偉業だ!

ニュースによると投手として2勝以上をしてかつサイクルヒットを打ったのはあの、ジョージ・シスラー以来二人目とのこと。もう、100年近く前の記録である。ジョージ・シスラーといえばイチローに抜かれるまでは、シーズン最多安打記録257を持っていた偉大な打者だ。二刀流としてベーブ・ルースと比較されまたジョージ・シスラーと比較され、そんな偉大な打者と比較されるなんて本当に光栄なこと。

今後の期待はまだ誰も達成していない記録。そう、打者としてサイクルヒット、そして投手としてノーヒッター!

翔平がノーヒットノーランを達成する可能性は大きいと思う。

なんて夢のひろがる選手なんだろう!

 

 

 

インボイス制度の導入間近! 免税事業者にも大きな影響!

2018-09-01

消費税の計算上、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が5年後の2023年度より本格的に導入されます。2019年10月からは軽減税率の導入に合わせ、「区分記載請求書等保存方式」が始まります。

インボイス制度は事業者にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

まず、請求書や領収証(いわゆるインボイス)に記載する内容が増えます。

請求書発行事業者の氏名又は名称、取引年月日、取引内容、受領者の氏名又は名称に加え、「適格請求書発行事業者登録番号」、「軽減税率の対象品目である旨」、「税率ごとに区分した金額と適用税率」、「税率ごとに区分して合計した消費税額」を記載しなければなりません。

領収証を発行する事業者はレジなどの切り替えが必要となります。

領収証を受け取る側は、インボイスが無いと仕入税額控除ができなくなり、インボイスの記載金額を税率ごとに区分して帳簿をつける必要があります。

具体的に考えると相当大変で、領収証を税率一つのもの、税率二つのもの、インボイスに該当しないものに区分し、それぞれの金額と税率を分けて記載しなければなりません。これだけで今までの倍ぐらいの手間がかかるのではないでしょうか。今後軽減税率の種類が増えていけば手間は更にかかってくるでしょう。経理処理は相当面倒くさくなること間違いありません。会社の経理の方は相当苦労されるのではないでしょうか。

一方、インボイス制度導入は消費税の課税事業者のみならず免税事業者にも大きく影響しそうです。

なぜかと申しますと、この制度ではインボイスが無いと仕入税額控除ができないと既に申しましたが、免税事業者はそのインボイス(適格請求書等)を発行することができないのです。よって、購入者側は免税事業者から物を買ったり仕入れたとしても、インボイス自体が無いので、そこにかかる消費税の仕入税額控除ができないわけです。

もし税込価格が同じ値段の物を買う場合、買う側からすれば仕入税額控除のできない免税事業者よりも、仕入税額控除ができる課税事業者から買う方が消費税分得なので、免税事業者から物を買わなくなるでしょう。免税事業者としては消費税分を値引きするか、課税事業者を選択してインボイスを発行できるようにするかしか対抗手段はなくなります。

今まで免税事業者が享受していた益税のメリットがこの制度導入によりなくなるということです。おそらくこの部分が今回の消費税法改正の肝であると考えられます。

今回の改正で、益税という消費税独特の不公平は解消されますが、免税事業者にとっては非常につらい税制改正と言えます。

 

 

 

 

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