4月, 2015年

将棋電王戦 最終局 コンピュータソフトAWAKEの21手目の投了は是か非か

2015-04-15

先日4月11日 ニコニコ動画の主催で将棋電王戦ファイナルの最終局が行われました。阿久津主税八段対コンピュータソフト「AWAKE」の対戦です。

「人類対コンピュータの最終決戦ついに決着!」と銘打って行われたプロ棋士対コンピュータの5対5の団体戦ですが、その最終局で事件が起こりました。

第4戦までの結果はプロ棋士の2勝2敗で、この第5戦で決着がつくという大一番です。

解説には永世名人の森内九段と藤井システムでお馴染の藤井九段という豪華な顔ぶれで、しかも途中で渡辺棋王がゲスト参加するということで、将棋ファンにはたまらない1日になるはずでした。

ところが、開始49分、21手目で事件が起こりました。なんとまだまだ序盤の段階で、コンピュータソフトAWAKEの開発者巨瀬氏が投了を宣言したのです!

一瞬何が起こったのか、解説者や来場者もあっけにとられ、AWAKEが投了したということが判明した時には、会場中から「え―っ!」という叫び声があがりました。もちろんニコニコ動画の画面は非難、疑問、賛同の意見が入り混じったコメントの嵐でした。朝10時開始で、終局は早くても夜の7時か8時ぐらいだろうと思われていただけに、折角空けていたこのあとの時間をどうしてくれるんだというようなコメントも多数ありました。

なぜ投了したのか。その後の記者会見などによって、その全貌は明らかになりました。以下その顛末を書きますので、21手目の投了を是とするか非とするか、皆さんも考えてみてください。

ここで、問題となった手とは、21手目の阿久津八段が指した手ではなく、そのひとつ前に後手AWAKEが指した、「2八角」という手でした。実はこの手は一見その後に馬を作れて後手が優勢になるように見えますが、かなり有名な嵌め手で、この角は数手後に先手の飛車にただで取られてしまう悪手だったのです。よって、通常プロの棋戦でこのような手は指されないのですが、AWAKEは指してしまったのです。であれば単純にAWAKEがプロより弱いという結論でよいのですが、問題になったのは更に様々な伏線があったからなのです。

まずルール上の問題です。電王戦では対局の半年前に各プロが対戦するソフトを借りて、徹底的に研究できることになっています。そしてコンピュータ側は貸出後はシステム上の問題を含めて一切プログラムを変更できないことになっています。つまり、プロが研究の中で、もしソフトの弱点を発見すれば、かなり有利に本番を戦えるということです。

実は今回の電王戦ファイナルの第2戦、永瀬六段対ソフト「Selene」の対戦でも同じようなことが起こりました。終盤永瀬六段が2七角と敵陣に角を進めたのですが、通常角成りと馬を作るところを敢えて永瀬六段は成らずとしたのです。するとSeleneは角成らずを認識できず、反則の手を指してしまいました。対戦後、システムに角成らずという手がプログラミングできていなかったと開発者は回答していました。永瀬六段は研究段階でそのソフトのシステム上の瑕疵を発見していたらしく、チャンスがあれば指そうと思っていたらしいです。

要するに、嵌め手に誘導されたり、角成らずのような手を認識できないというシステム上の問題が対局前に発見されたとしても、ソフト側が改善できないというルールに問題があるのではという意見です。

また、さらにややこしいのは、今回の電王戦ファイナルの前に開かれた企画「AWAKEに勝ったら100万円」とうアマチュア参加イベントにおいて、アマチュアが今回と同じ2八角という嵌め手でAWAKEに勝っているのです。当然、阿久津八段もそのことは知っています。

AWAKE開発者の巨瀬氏は対局後の会見で「先日のアマチュアのイベントで初めてこの弱点があることを知りました。もし本番でこの展開になったら勝ち目がないので投了するつもりでした。ただ、私はプロ棋士の棋力向上のためにソフトを利用してもらえればという気持ちでソフト開発に力を注いできました。今回のようにアマチュアがすでに指した嵌め形をプロ棋士が指してしまうということはプロの存在意義を脅かすのはプロ棋士ではないかと思っています。」と投了の理由を述べています。つまり阿久津八段がアマチュアがすでに使ったこの嵌め手を採用したこと自体、プロの姿勢としてどうなのかと言いたかったようです。

それに対して、阿久津八段は「ソフトを借りて3、4日でこの弱点を発見していました。普段やらない形なので葛藤もありましたが、一番勝ちやすい形を選ぼうと思いました」と直接的反論は避けました。おそらく、阿久津八段は、「AWAKEに勝てたら100万円」というイベントのかなり前にすでに弱点を発見していたので、アマチュアの手を真似たわけではないということと、団体戦の大将という責任ある立場上、勝つことを優先したまでで、ルール上問題ないし、相当なプレッシャーの中でこの選択肢しかなかったと言いたかったのではないでしょうか。

勝利を優先するのか、プロ棋士としての姿勢を重んじるのか。もちろん阿久津八段が今回の嵌め手を選択をしたことがすなわち、プロとしての姿勢を問われるかどうかは議論の分かれるところですが。

ただ、将棋ファンとしては、このような対局を見るためにわざわざ時間を空けているのではないと言いたいですね。ルールを作った主催者や対局者二人に欠けていたのは対局を見ているファンへの配慮でしょうね。

阿久津八段にはできれば、このような嵌め手を採用するのではなく、得意戦法でガチンコ勝負をして欲しかったです。それで負けてもファンはあなたを責めないでしょう。定石化された嵌め手でたとえ勝ったとしてもそこには何の感動もないでしょうから。

また、巨瀬さんにはプロ的には負けとわかっていたとしても、見ているファンはアマチュアなのですから、もう少しコンピュータに指させて欲しかったです。あの後どうなるかはアマチュア的にはとても興味あるものですよ。不利な状況からコンピュータがどのような手を指すのか。もしかしたら、阿久津八段が間違えるかもしれないですし、コンピュータが思っても見なかった手を発見するかもしれないじゃないですか。今回の投了はその可能性を開発者自らが放棄しかつファンの好奇心を無視したといえるのではないでしょうか。そしてもしソフトが負けるとしても、電王戦ファイナルにふさわしくソフト自身に投了を判断させて欲しかったと思います。

いずれにしても、プロ棋士がこのような嵌め手を選択せざるを得ないこと自体、コンピュータソフトが相当強いことの証でもあるのですが。以前にもこのブログ「羽生善治はコンピュータに勝てるか」で予想しましたが、いよいよ、コンピュータ対人間の対局がイベントとして意味をなさなくなってきたように感じます。

私がプロの対局を見て初めて感動したのは今から30年近く前のNHK杯戦での羽生対加藤戦です。解説者は亡き米長九段でした。中盤に差し掛かかったところで、羽生が5二銀と打ったのです。打った瞬間解説の米長九段が「おおっー!、やった!」と大きな声で叫びました。別室で対局していた羽生にも聞こえたくらいの大声です(後日談)。聞き手の永井さんも「いったいこの手はどういう意味なんですか?」と米長九段に聞き返していました。それほど意外性のある一手だったのです。その対局はそのあと数手で羽生が勝利しました。「へー、将棋ってエキサイティングやん」って将棋の面白さを味あわせてくれた思い出の一局です。

第1回電王戦の発案者でありかつ対局者であり、初めてプロ棋士としてコンピュータに敗北した米長九段は、この電王戦ファイナル最終局の投了場面をご覧になって、果たしてなんとおっしゃられるのか、ぜひ聞いてみたいものです。まさか「おおっー!、やった!」とはおっしゃらないと思うのですが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

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