10月, 2020年

大阪都構想(大阪市廃止案)は是か非か?大阪市民は自分たちの自治権を手放すのか?

2020-10-16

いよいよ「大阪都構想(大阪市を廃止する案)」の住民投票が近づいてきましたが、大阪市民の皆さんは賛成ですか反対ですか?それともまだ迷っていらっしゃいますか?

今回は先日、大阪市が市民に配布した、「特別区設置協定書についての説明パンフレット」(以下「パンフレット」といいます)をベースに、「二重行政解消のメリット」、「財政収支は黒字か赤字か」、「将来的な経済効果はあるのか」、「税金の徴収とその使われ方は大阪市民にとって納得のいくものか」の4つのポイントについて、特にお金の面を中心に「大阪都構想(大阪市を廃止する案)」が大阪市民にとってメリットがあるかどうか見てみたいと思います。大阪人ですのでお金のことは気になりますよね。

なお、「パンフレット」では大阪都構想のことを「いわゆる大阪都構想」と表現されていますが、大阪都構想の本質は「大阪市を廃止して特別区を設置すること」ですので、今回は、「大阪市廃止案」という表現を使わせていただきます。

 

第一のポイントは、「大阪市廃止案」の最大の論点、「二重行政解消」が大阪市民にとってメリットがあるかどうかです。

ところで、「二重行政解消」には二通りの意味があります。一つは「既存の二重行政の解消」、もう一つは「将来起こりえる二重行政の防止」です。

まず、「既存の二重行政解消」について見てみましょう。5年前の住民投票の時によく言われたのが、「大阪府と大阪市の二重行政が解消されることにより毎年4000億円の無駄が解消される」というものでした。本当はそこまでの金額はなかったのですが、そのときは、これは大きなメリットだと感じて賛成に投じられた方も多かったのではないでしょうか。

では、今回配られた「パンフレット」ではその金額はどうなっているでしょう。「パンフレット」の36ページをご覧ください。それによると、「二重行政解消による経済効果は、10年間で39億円から67億円となる」と書かれています。10年間で39億円から67億円ですので、1年間では4億円から7億円ぐらいということになります。

5年前の4000億円に比べるとかなりのトーンダウンですね。1000分の1ですからね。

わずか数億円の経済効果のために、大阪市を廃止する必要があるのかどうかは大きな疑問です。浮いてくる4000億円の財源を大阪市と大阪府で有効利用できるからこそ、多少のリスクがあろうとも「大阪市廃止案」に賛成という人は多いと思いますが、もしその果実がないとなると、果たしてどうなのでしょう?

 

次に「将来起こりえる二重行政の防止」について見てみましょう。大阪維新の会は「現在は府と市が知事と市長の人間関係でうまくやれているが、今後、人が変わっても府と市が揉めないように、制度自体を変える必要があり、その方法が大阪市を廃止して大阪府に権限を一元化することである」と「二重行政解消」の必要性を訴えています。

しかし、現在の地方分権の考え方は、そのような考え方とは正反対です。都道府県の権限を市町村に移譲することで、都市の成長と発展を市町村単位で推進していこうというのが、政令指定都市制度の考え方です。そしてそこで生じる「いわゆる二重行政」については、大阪市に限らず、横浜市や名古屋市などの政令指定都市も甘んじて受け入れているのです。どの政令指定都市も都道府県との間で利害がぶつかった時には揉めるのは当然あり、それを話し合いで解決するのが民主主義の原則だと考えているのです。その民主主義の手続きが面倒だからという理由で、権限を府に一元化するやり方は、明らかに今の地方分権の流れに反していると言わざるをえません。

では、今まで大阪府と大阪市の間で生じたと言われている「いわゆる二重行政」が、民主主義の手続きを省略してでも解消すべきものだったのか、確認したいと思います。

パンフレット」の9ページをご覧ください。そこには、1980年代と1990年代の大阪府と大阪市が手掛けた過去の大型開発の事例として、りんくうビル、ATCビル、WTCビル、クリスタ長堀、フェスティバルゲートなど20種類近くがあげられています。金額にすると大阪府で1兆1590億円、大阪市で5290億円となります。また、府市の重複機能の例として、大阪府立大学と大阪市立大学、大阪府立病院と大阪市立病院、府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所、大阪府信用保証協会と大阪市信用保証協会、りんくうビルとWTCビルなど10種類以上があげられています。さらに広域インフラ整備として、淀川左岸線延伸部の開発なにわ筋線があげられています。

 

まず、りんくうビルATCビルWTCビルなどの大型開発については、二重行政の失敗というよりも、大阪府や大阪市の経済政策の見通しの甘さや、第3セクター方式の失敗と言えるのではないでしょうか。

りんくうビルWTCビルは、大阪府と大阪市がわずか10センチの高さ争いをしたということで、よく二重行政の象徴として揶揄されますが、府と市が高さ争いをしたから問題であったわけではなく、クリスタ長堀やフェスティバルゲートなど他の大型開発と同様に、大阪府と大阪市それぞれが、バブル景気に踊らされ経済政策を誤ったことが問題だったわけです。

ここで、住民投票を前に、これら大型開発の失敗に学ぶとすれば、大阪市が廃止され、司令塔が大阪府だけになったとしても、大阪府知事や府議会議員が政策判断を誤れば、同じ過ちを繰り返す恐れが十分あるということです。特に、大阪維新の会は「大阪市廃止案」の先にカジノを取り入れたIR構想を成長戦略のひとつとして掲げていますが、権限が大阪府に一元化されたとしても、その時の知事や府議会が状況判断を誤れば、りんくうビルやWTCビルの二の舞になることだってあるのです。さらに、権限が一元化されるからこそ、政策を間違えたときに軌道修正されにくいという負の側面もあります。

 

次に、大学や病院などの重複機能としてあげられているものについて、これらすべてが「解消されるべき二重行政」にあたるのかどうか見てみたいと思います。

例えば、大阪府立大学と大阪市立大学の統合について言うと、大阪府立大学は堺市や羽曳野市などに点在し、比較的理科系に特化した大学です。一方、大阪市立大学は住吉区や阿倍野区に点在し、総合大学という位置づけの存在です。それぞれ100年以上の歴史と伝統がある大学で、教育や研究の担い手として十分存在意義があったのではないかと思われます。大阪府北部には国立の大阪大学、大阪市内に市立大学、大阪府南部に府立大学という位置関係ですので、それぞれの地域で必要な教育機関でした。関西地区は人口のわりに国公立大学が少なく、大学としての需要は高かったと言えます。大学などの教育機関の場合、コスト削減だけにこだわらず、伝統やアイデンティティの継承が寸断されることのデメリットも十分検討する必要があります。

住吉市民病院と府立総合医療センターの統合ですが、住吉市民病院が無くなったことで、地元に医療の空白地帯ができ、住民は十分な医療サービスを受けられない状況が生じました。もし統合せざるを得ない財政的理由があるのであれば、ことを急がず、地元や利用者の事情を十分汲み取って、医療サービスの空白を生じさせないよう丁寧に行うべきでした。

上記の例などは、重複機能の統合を優先してしまったがために、本来行政がやるべき「住民サービス」がなおざりにされた例ではないでしょうか。本当は二つとも必要なのに、「大阪府立」と「大阪市立」という名前だけに反応し、やらなくてもいい統合「いわゆる二重行政の解消」をやってしまったと言えるかもしれません。

 

次に広域インフラ整備として、淀川左岸線延伸部の開発なにわ筋線について見てみます。

これらは、広域インフラ整備とはいえ、ほとんどすべて大阪市内の道路や鉄道の開発であり、本来大阪市の都市整備です。ただし、経済波及効果が他の市町村にも及びますので、大阪府も関係します。問題として、用地買収費や開発費を誰がどう負担するかということや、実際に道路や鉄道が走る大阪市内の地域住民の同意をどのように得ていくのかということがあり、府市の意見が合致せず開発が進まなかったという経緯があります。決して大阪府と大阪市が理由もなく揉めていたわけではありません。経済効果に期待する大阪府と地域住民の負担を考慮しなければならない大阪市の間で、意見が合わないのは当然かもしれません。この意見調整という手続きをすっ飛ばして、大阪府が一方的に決めていいのかは、「大阪市廃止案」を検討するうえで、大阪市民はよく考えなければならないことです。

 

以上、過去の「いわゆる二重行政」と言われてきたものを見てきましたが、民主主義の手続きを省略してまでして、解消しなければならないような、「二重行政」かどうかは大きな疑問が残ります。

 

結局、「将来起こりえる二重行政の防止」をするために権限を大阪府に一元化することには功罪両面があり、政策推進のスピードは増すかもしれませんが、その反面、地域住民の意見など十分考慮すべき内容を見過ごす恐れがあります。また、権限が大阪府知事に集中するあまり、政策が独善的になりやすく、政策を間違えた場合の軌道修正も難しくなります。さらに、大阪府知事は大阪府全体のことを考えますので、場合によっては、大阪市民(特別区民)の権利が侵害される恐れがあります。スピードを優先するのか、それとも、民主主義の手続きを尊重するのか、「大阪市廃止案」の賛否を判断するうえで重要な論点だと思います。

 

第二のポイントは、特別区にした場合の「財政収支」は黒字なの?赤字なの?ということです。

そこで、「パンフレット」の33ページと34ページをご覧ください。そこには「特別区全体の収支見通し」のグラフがあります。2025年から2039年までの15年間の収支を折れ線グラフにしたものです。それによりますと、「大阪市廃止案」が開始する2025年は33億円の黒字、2029年に一旦17億円に下がりますが、その後は毎年黒字が増加し、2039年度には71億円の黒字になるというものです。

ずっと黒字なので問題ないのかな?と思いますよね。でもその中身が問題です。この「パンフレット」には詳しく書かれていませんが、34ページの右下にQRコード「特別区の財政シミュレーションはこちら」というのがありますね。このサイトにアクセスすると、数値の内容が詳しく書かれています。是非参考にしてください。

それによりますと、例えば2025年の33億円の黒字の内訳は次のようになっています。

A.財政収支推計額(税金などの歳入から人件費その他の歳出を控除した金額)プラス25億円

B.改革効果額(大阪メトロからの配当金や廃棄物処理事業や市民プール事業の合理化などによって生み出される収益)プラス61億円

C.組織体制維持費(職員を市から府へ移管するうえでかかる歳入と歳出の差額)マイナス21億円

D.特別区設置コスト(設置により毎年かかるランニングコストの額)マイナス32億円

これらの合計は、A+B+C+D=33億円ということです。

これを15年の平均額に引き直すと次のようになります。

A.財政収支推計額 マイナス24億円

B.改革効果額 プラス105億円

C.組織体制維持費 マイナス8億円

D.特別区設置コスト マイナス17億円

合計額はA+B+C+D=56億円となります。15年の平均は56億円の黒字ということです。

さて、ここで問題なのが、黒字に寄与しているのがBの「改革効果額」だけであることです。この「改革効果額」というのは、主に大阪メトロの配当(約70億円)などから構成されています。財政収支黒字の大きな根拠が所有株の配当というのは心もとないですね。しかも大阪メトロ1種類です。どこの投資家が1種類の株だけを頼りに投資しますか?もし大阪メトロの業績が悪化し、無配当になれば、70億円の収入がなくなり、即座に特別区の財政は赤字に転落するのです。ある意味大阪メトロと心中するつもりでないとこの試算を受入れることはできませんね。また、今心配されているのがコロナの影響です。インバウンドの減少や、テレワークの普及により地下鉄利用がどうなるかは非常に不透明です。

 

第三のポイントとして、特別区設置による経済効果はどれぐらいあるのか見てみましょう。

「パンフレット」の36ページをご覧ください。特別区設置による経済効果として、①特別区の財政効率化効果、②二重行政解消による財政効率化効果、③府市連携による社会資本整備の経済効果、などの経済効果がうたわれています。この中で②二重行政解消による財政効率化効果についてはすでに述べましたので、他の経済効果について見てみましょう。

そのためには、このページの右下にあるQRコードの「経済効果に関する報告書」を見る必要があります。

まず、①特別区の財政効率化効果についてですが、この効果の大前提となる考え方が、市町村の人口が何人であれば最も一人当たりの歳出を抑えることができるかというものです。人口が少なすぎても多すぎても歳出は増加するらしく、その最適値が人口50万人であるとのこと。「大阪市廃止案」の特別区の人口は60万人から75万人ですので、これは最適値に近いということで、今の大阪市より歳出を抑えられるという理屈です。

この場合の特別区4区の1年間の歳出の合計額は5,511億円と試算され、現在の大阪市の歳出額6,615億円と比較し、1,104億円歳出が抑えられるということです。その10年分が1兆1040億円となり、「パンフレット」の36ページに記載された金額になるということです。

これについてはどこまで信憑性があるのか定かではありません。最適人口が50万人であるというのはあくまで統計数値であり、また、自然に形成された人口と人工的に分割された人口ではその意味合いが違います。例えば、政令都市としての機能が大阪府に移管するので特別区での歳出は下がりますが、その分大阪府の負担が増え、それを大阪市の財源から出すので、歳出自体が削減されるわけではありません。また、4つの特別区に分けると言っても、住民サービスを維持するために、これまでの24区の区役所はそのまま残りますので歳出は下がりません。また各特別区独自の庁舎を建設しないことにより、現在の大阪市役所に新淀川区と新天王寺区の職員の5割から8割が間借りすることになり、職員間でのやりとりなど非効率な部分が残り、逆に事務負担が増える可能性があります。さらに、介護保険事業や児童養護施設、財産管理など各特別区に共通する行政事務ついては「一部事務組合」を新たに設置することとなり、職員の増員などコスト増は否めません。これらのことを考慮すると人口を50万人に近づけるだけで本当に歳出削減効果があるのかは疑問です。

普段から企業財務を見ている私の感覚ですが、通常、企業合併よりも企業分割の方が全体としてコストが増えます。企業分割することでそれまでのスケールメリットが薄められ、さらに、経理部などの管理部門が分割された企業それぞれに必要になってくるからです。コストを下げる場合は通常、分割ではなく合併を提案します。今回は大阪市が4つに分割されるわけですから、50万人という最適人口にしたとしても、常識的にはコストが増えるように思います。

次に、③府市連携による社会資本整備の経済効果についてですが、これは次の3つの事業のインフラ整備による経済効果です。

イ.地下鉄中央線の延伸 540億円

ロ.JR桜島線の延伸 1,700億円

ハ.なにわ筋連絡線・新大阪連絡線 1,310億円

合計3,550億円と工期10年とした場合の生産誘発額1,317億円を加算し、4,867億円となるとのことです。これが「パンフレット」に書かれた金額です。

これについては、「大阪市廃止案」の有り無しにかかわらず行われるインフラ整備であり、「大阪市廃止案」とは関係がありません。これを「大阪市廃止案」の経済効果として「パンフレット」に堂々と掲げているのはなぜなのか、大阪市は市民に説明すべきでしょうね。もし、「大阪市廃止案」が否認されたら、これらのインフラ整備がストップされるのであれば、そのように市民に説明すべきです。

以上、特別区設置による経済効果については、前提の置き方がおかしかったり、「大阪市廃止案」と関係なかったり、その効果はかなり割り引いて評価すべきように思います。

 

第四のポイントとして税金の徴収とその使われ方は大阪市民にとって納得いくものかどうか。

「パンフレット」の27ページと28ページをご覧ください。

まず、徴収面ですが、現状の大阪市の税源は7,900億円ですが、「大阪市廃止案」ではそのうち5,400億円を大阪府が徴収(法人市民税、事業所税、固定資産税、都市計画税、特別土地保有税)し、2,500億円を特別区が徴収(個人市民税、市たばこ税、軽自動車税など)することになります。大阪府が徴収した5,400億円のうち、4,000億円が特別区に配分され、1,400億円が大阪府に留まります。大阪府はその他に宝くじ収益金等600億円を大阪市から移譲されますので、大阪府の財源は2,000億円となります。特別区は大阪府から配分される4,000億円と自ら徴収した2,500億円を合わせた6,500億円が財源となります。

次に財源の使われ方ですが、大阪府に移譲された財源2,000億円については大阪府の判断で、特別区の広域行政などに使用されます。くれぐれも間違えてはならないのが、特別区に使われるのであって、大阪府全体に使われるわけではありません(「パンフレット」15ページに「大阪府に配分される財源は現在大阪市が担っている広域的な役割に使います」と書かれています)。つまり、今までは大阪市が大阪市内の広域行政などに、大阪市独自の判断で使用していた2,000億円が、大阪府に配分され、大阪府が特別区の広域行政などのために独自に使用していくことになるのです。

特別区に残る事業とは次の様なものです(6,500億円)。

防災、住民票・戸籍・パスポートなどの生活事務、保育・子育て支援・児童相談所・生活保護・福祉事業・保健所などの福祉事務、区道・地域の公園・区営住宅などの地域のまちづくり、商店街など地域の企業支援、ごみ収集、幼稚園・小学校・中学校などの教育などです。

逆に大阪府に移管される事業とは次の様なものです(2,000億円)。

消防、水道、病院、大学・高校、卸売市場、港湾、下水道、大阪城公園・天王寺動物園・長居競技場・鶴見緑地などの大規模公園、鉄道・新御堂・高速道路など広域な交通基盤、広域的なまちづくり、観光、博物館、美術館、成長戦略、グランドデザインなどです。

 

大阪市民にとっては、この2,000億円を使う「権限」を失うことが最も大きな痛手となります。「大阪市廃止案」推進派は、特別会計にして財源の使われ方をガラス張りにするので問題ないと言っていますが、特別区民がこの財源の使われ方に意見を言えるとすれば、特別区長を通じて「大阪府・特別区協議会(仮称)」を通すしかありません。この協議会は4人の特別区長と知事、学識経験者からなります。この協議会で合意されなければ3名の学識経験者で構成される「第三者機関」の調停案に従うことになります。たった3名の学識経験者が最終的な決定権を持っているのです。もしそれでも納得できずどうしても特別区民の民意を反映させたいときは、府議会議員選挙で府議会議員を変えるしかありません。これは民主主義の観点から問題が無いのでしょうか。特別区民の区民サービスについて、区政とは直接関係のない府議会を通さざるを得ないのは制度的におかしくないですか。

そもそも、この2,000億円は大阪市のためにしか使えないものであるのに、なぜ、わざわざ大阪府に任せる必要があるのでしょうか。政令指定都市である名古屋市の皆さん、愛知県が名古屋市からお金を預かって、愛知県の判断で、名古屋市の行政を行うことに賛成できますか?お金だけ出して決めるのは他人って、どうなのでしょうか。「地方自治において、住んでいる人と決める人が違うのは非常に問題があると思いますし、そもそも民主主義の理念に反しませんか?」

「大阪市廃止案」の推進派は、二重行政解消にこだわり過ぎて、大阪市民の自治権が侵害されていることに目をつぶっているように思います。本来、地方自治体は、市町村が基本単位であり、都道府県はその補完機能や連絡機能を果たすべきものです。政令指定都市であればなおさらです。よって、都市整備についても市町村内のことは市町村がやるべきで、都道府県はできるだけ口を挟まないようにしなければなりません。二重行政の原因のほとんどは都道府県が口出しし過ぎることにあるのです。一方、交通基盤など複数の市町村にまたがるような広域行政については、都道府県と市町村が協議会などを設け、合議制で決めていけばいいのです。現に「大阪市廃止案」でも「大阪府・特別区協議会(仮称)」でやろうとしているではないですか(皮肉)。

 

ところで、権限が大阪府に移行するデメリットとして、災害時にどうなるのかという点は重要ですので、お金の話とは少し離れますが、ここで考えてみたいと思います。

消防や水道などの権限が大阪府に移行してしまうと、台風や地震などの災害が発生した場合に致命的な不都合が生じます。なぜかと言いますと、「大阪市廃止案」では、「防災」は特別区に権限があり、「消防・水道・病院・大規模公園」などは大阪府に権限がありますので、防災の司令塔である特別区長が、消防・水道・病院・大規模公園などに直接口出しできないのです

想像してみてください。災害が発生すれば消防には迅速に動いてもらわないといけませんが、防災の司令塔である特別区長は消防に指示することができないのです。水道という最も重要なライフラインの復旧についても特別区長は指示をすることができず、大阪府にお伺いを立てなければなりません。病院や大規模公園も大阪府に権限がありますので、避難場所をどうするのか、地域のどの病院にどの様に動いてもらうのかさえ、特別区長は直接指示ができないのです。当然、特別区は普段から消防・水道・病院・大規模公園を管轄していませんので、災害時に急に動けと言われても初めから無理な話です。では、その代わりに大阪府知事が動いてくれるでしょうか。知事には防災の権限はありませんので、直接防災の指示はできません。結局、「消防・水道・病院」などをどうするかについては、知事と特別区長が相談をしながら判断することになります。まさに「防災の二重行政」です。こんなことでは、災害対応は後手後手になり、救える命も救えなくなるかもしれません。今の「大阪市廃止案」にはこのような欠陥があるのです。やはり、防災については、消防や水道や病院などの権限を大阪市長が掌握している今の大阪市の体制がベターではないでしょうか。

 

以上、「二重行政解消のメリット」、「財政収支は黒字か赤字か」、「将来的な経済効果はあるのか」、「税金の徴収とその使われ方は大阪市民にとって納得のいくものか」の4つのポイントについて見てきましたが、大阪市民の皆さんはどうお感じでしょうか。「パンフレット」の中で理解しづらい部分をできるだけわかりやすく解説したつもりです。結局、お金の面から見ると、二重行政解消のメリットはほとんどなく、財政収支の黒字の根拠が大阪メトロ頼みでした。また制度を変えるために今以上のコストが掛かり、そのコストを補うための経済効果の真偽がよくわかりませんでした。このように「大阪市廃止案」のメリットがはっきりしない中で、ただ確実に言えることは、大阪市民は、年2000億円という大きな権限を大阪府に移譲しなければならないということです。

 

今回、「特別区設置協定書についての説明パンフレット」を題材に、「大阪市廃止案」が実現した場合に大阪市民は得するのか損するのか、あれこれ考えてきましたが、結局のところ明確な結論は出ませんでした。どのシミュレーションも不確定要素が多いからです。コロナ禍によりその不確定要素は更に増えました。では、われわれは「大阪市廃止案」の賛否の判断基準をどこに求めたらよいでしょう。実は、損得だけを見ていても結論は出ません。お金の損得よりも、もっと大事なことがあります。それは「大阪市民の自治権が守られるかどうか」という視点です。「自分たちの税金を、自分たちの自治のために、自分たちの判断で使えるかどうかです。」

残念ながら「大阪市廃止案」が実現すると「大阪市民の自治権は守られません。少なくとも2,000億円分は制限されます」。なぜなら、すでに見てきた通り、「大阪市廃止案」では、税金の徴収権の7割が大阪府に移管し、また、大阪市の財源の3割に当たる2,000億円が大阪府の権限で使用できる制度設計となっているからです。「自分たちのまちづくりを自分たちで決めることができない制度」なのです。しかも特別区の住民には、財源の使われ方に反対するための制度が無いに等しいのです。「これは損得勘定とは次元の違う話であり、憲法に保障された基本的人権の侵害の問題です。」

「大阪市廃止案」は、「大阪市民の自治権が侵害されている」、この一点において否定されるべきではないでしょうか。誤解を恐れずに言います。「大阪市民の皆さん!二重行政解消ぐらいの理由で、自分たちの自治権を手放さないでください!」

11月1日の投票では支持政党はひとまず横に置いておいて、純粋に大阪市民として、賛成か反対かを投票してもらいたいです。「自治権の一部を大阪府に渡してもいい、という人は大阪市廃止に賛成を」、「大阪市のことはわれわれ大阪市民で決めたい、という人は大阪市廃止に反対を」。ご自身のこととして冷静かつ慎重に決めてください。

 

 

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