2月, 2022年
インボイス制度の本質は「増税」です
いよいよ、来年、令和5年10月1日から「インボイス制度」が開始されますが、インボイス制度の真の目的が消費税の増税であること、更には「登録番号」による納税者の一元管理であることに皆さんはお気付きでしょうか?
経営者の皆様とお話をしていても、実はインボイス制度が消費税の増税であることにまだお気付きでない方は多く、殆どの経営者は「8%や10%の複数税率を正確に計算するためにインボイス制度が導入される」という程度の認識しか持たれていません。
インボイス制度が「消費税のステルス増税の装置」と言うことができる所以は正にそれで、事業主が増税と気付かないうちにいつの間にか増税に従わざるを得ない状況が作られているということです。
なぜ、増税になるかと言うと、今まで免税事業者であった事業者が課税事業者にならざるを得なくなるように仕組まれているからです。
インボイス制度が導入されると、インボイス以外の領収証では、消費税の仕入税額控除ができなくなります。例えば、売上が330万円、仕入が220万円の取引の場合、売上の消費税30万円から、仕入の消費税20万円を控除した、10万円の消費税を国に納めることになります。ところが、その仕入先がインボイスを発行することができない事業者であれば、仕入の消費税20万円を控除することができず、売上の消費税30万円をまるまる納税しなければならなくなります。となると、インボイスを発行できない事業者からの仕入は消費税を余分に納税することになり損なので、インボイスを発行できる事業者からの仕入に切り替えていくこととなり、インボイスを発行できない事業者はどんどんと淘汰されていくという理屈です。
では、インボイスを発行すればいいではないかと言われるが、インボイスを発行するためには「適格請求書発行事業者」として国に登録しなければならず、「適格請求書発行事業者」に登録するためには、消費税の課税事業者になる必要があるのです。となれば、今まで免税事業者として消費税を免除されていた事業者も消費税を納税しなければならず、この消費税の納税がまさに増税ということです。
例えば、建設会社の下請けや孫請けをしている一人親方などがまさにその対象であり、たとえ課税売上高が1,000万円以下の免税事業者であっても、元請の建設会社に取引を継続してもらうためには、課税事業者にならざるを得ないということです。
ただし、元請会社の方も優越的地位を利用して、下請けに対して消費税分の値引きを要求したり、取引を停止したりすると「独占禁止法」や「下請法」に抵触することとなり、罰金や懲役刑になる恐れがあります。よって、免税事業者と取引をしている課税事業者は、仕入税額控除ができない分の消費税を自らが被らなければならず、課税事業者であっても少なからず影響はあるということです。
また、インボイス制度による増税は建設業界などの事業者同士の取引に限らず、一般消費者を相手にしている小規模の飲食店や小売店にも影響があります。例えば、企業が接待で飲食店を使う場合、インボイスを発行できない飲食店は自ずと避けられることになります。企業によってはインボイス以外の領収証は経費精算しないというような取り決めをするところも出てくるかもしれません。飲食店のオーナーが「最近客足が減ってきたな」と感じているその原因が実はインボイスを発行しなかったことにあったという笑えない話が現実のものとなるのです。そうすると、一般消費者を相手にする飲食店や小売店もインボイスを発行することができる課税事業者にならざるを得なくなり、今まで納める必要のなかった消費税を納めなければならなくなります。
更に言えば、インボイス制度は、今まで所得があるのに申告していなかった事業者の炙り出しにも効果を発揮します。例えば、ホストやホステスの中には確定申告をしていない人達も多いと聞きますが、店側としては彼らに支払う報酬を仕入税額控除したいわけで、そうなるとホストやホステスも「適格請求書発行事業者」として国に登録せざるを得なくなり、無申告というわけにはいかなくなるわけです。
要するに、インボイス制度とはあらゆる規模のあらゆる業種が従わざるを得ない、「消費増税の装置」であるということです。しかも、すべての「適格請求書発行事業者」に法人番号をベースにした「登録番号」が付与され、国税庁で一元管理されます。また、その「登録番号」はすべてのインボイスに記載しなければならず、今後、税務調査における反面調査の大きな武器にされるのは間違いありません。
インボイス制度の真の目的が、「消費税の増税」とともに、「国による納税者の一元管理」であるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。