12月, 2024年

「106万円の壁撤廃」 やはり社会保険制度に手を付けてきました

2024-12-12

やはり、厚労省は、国民民主党が打ち上げた「103万円の壁引き上げ」に注目が集まっている裏で、どさくさに紛れて社会保険料の増税をやってきましたね。

と言うのも、12月5日、厚労省はパート労働者が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する「年収要件(106万円以上)」2026年10月に撤廃する方向で調整に入ったと発表しました。さらに、従業員数が51人以上の企業を対象とする「企業規模要件」2027年10月に撤廃し、週の労働時間が20時間以上の人は「年収」や「企業規模」に関わらず社会保険に加入しなければならなくなるという事です。

ただし、労働者の負担を軽減し、20時間の壁による「働き控え」を抑制するために、年収が156万円未満の人に限り、企業の判断で、増加する社会保険料を企業側が肩代わりできる仕組みを検討しているとのこと。「できる仕組み」と聞くと、企業側にとって何かメリットがある権利かと思いきや、全く逆で、労働者の負担増を抑えるために企業側が社会保険料の労使負担率を企業側に多く負担させることが出来るというもの。現状では、社会保険料は労使折半(50%対50%)ですが、企業側の負担率を60%とか70%、場合によっては90%とかにできるというのです。

この仕組みでは、社会保険料の労使負担率を企業側の任意で決められますので、体力のある大企業が圧倒的に有利になります。例えば、人材を確保するために戦略的に、社会保険料の負担率を企業側90%・従業員側10%に設定する大企業が現れたとします。そうなると、中小零細企業人材確保のためには大企業に追随せざるを得なくなり、社会保険料の負担増による企業収益の悪化を招き、体力の無い中小零細企業は経営危機に陥るおそれがあります。本来、年収の壁を緩やかにするためには国が補填分を負担すべきところを、企業側に押し付けるという酷い仕組みです。それを「できる仕組み」と言ってのける厚労省のお為ごかしには本当に呆れます。中小零細企業にとっては生き残るために「従わざるを得ない仕組み」ですよね。

さらに問題は、新たに「156万円の壁」ができてしまうことです。パート労働者にすれば、156万円を超えた時点で、労使負担率が「50対50」に戻り、社会保険料の負担額が一気に増えるのであれば、156万円の手前で「働き控え」をしてしまうでしょう。

今回は106万円の壁の撤廃でしたが、ゆくゆくは、「第3号被保険者制度」の廃止も本格的に取り沙汰される可能性がありますので、減税の裏で密かに進む増税の思惑について、納税者としては更に注視していくべきでしょうね。

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