初めてタカラヅカを観劇してきました!

2022-06-09

皆さんはタカラヅカにどんなイメージをお持ちでしょうか?

 私は生まれてこの方、タカラヅカを全く見たことが無く、たまに取り上げられるテレビの映像から、「派手なメイクと衣装で着飾った男装のレヴュー」といったイメージしか持っていませんでした。女優で言うと鳳蘭や大地真央、演目で言うとまさに「ベルサイユのばら」というイメージです。いわゆる、女性が楽しむエンタメであり、わたしのような男性にはとんと縁のない世界だと思っていました。

 しかし、3か月ほど前にテレビで放送された宝塚花組の「はいからさんが通る」という芝居を何気なく観ていて、「あれっ、意外に面白いかも」と思ったのです。いや、正直言うと、かなり感動したというか、癒されたというか、なんとも言えない幸せな気分になれたのです。

 感動の理由は、お芝居の面白さもさることながら、主人公花村紅緒を演じた華優希の体当たりの演技に魅了されたからだと思います。表情、動き、せりふ、歌がとにかくエネルギッシュで、コミカルで、しかもかわいいのです。うまい、下手を超越して、目を離さずにはいられない独特の熱量が伝わってきました。彼女の演技は、私のタカラヅカに対する先入観を払拭しました。

 華優希の演技に魅了された私は、他にももっと面白い芝居があるのではないかと思い、過去に公演されたタカラヅカの芝居やショーをテレビやネットで探して観ていましたが、それだけでは飽き足らず、このたび、宝塚大劇場で公演中の、花組の「巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~」という芝居と、「Fashionable Empire」というショーの二本立ての公演を観劇してきました!

 

以下の感想は素人のたわごとと聞き流して欲しいのですが、「いやぁ~、これは凄いことをやっているなぁ」と驚嘆しました。

 公演の流れは、1時間35分の芝居のあと、35分の休憩があって、そのあと55分のショーがあるのですが、絢爛豪華な衣装、ダイナミックな舞台装置、巧みな照明、芝居に寄り添う生バンドの演奏、そしてとにかくエネルギッシュなジェンヌたちの演技。約3時間の公演があっという間でした。

 まず驚かされたのが、ダイナミックに動く舞台装置です。私は2階席でしたので、舞台全体を見下ろすことができ、立体的に舞台装置が動く様子をじっくり観察することができました。例えば、回転舞台が回ることで素早い場面転換をしていくのですが、その回転舞台にもいくつかの仕掛けがあり、その上に設置された大きな建物が、回転舞台が回転していく中でその中に沈んで行き、跡形もなく消えてしまうのです。かなり大きな建物が、しかも舞台が回っているにも拘らずですよ。

 また、生バンドの演奏も素晴らしかったです。タカラヅカはカラオケではなく「生バンド」なんですね。宝塚大劇場は、舞台と客席の間に「銀橋」という渡り廊下があって、演出上重要な役割を果たすのですが、バンドはその「銀橋」と舞台の間のオケピットで演奏するのです。ミュージカルやオペラでは当たり前のことなのでしょうが、よくここまで淀みなく演技と演奏をシンクロさせることができるものだなと、指揮者と演奏者の技術力に感服しました。

 しかも、音響が凄くて、歌唱や効果音が観客の鼓膜だけでなく全身を震わせるのです。特に、今回、ラプリュナレド伯爵夫人を演じた音くり寿の歌声は圧巻でした。

 タカラヅカの強みは、このような舞台装置や音響設備、生バンドを常備している「宝塚大劇場」などの専用劇場を持っていることではないでしょうか。専用劇場があるからこそ、ジェンヌたちの出演機会が増え上達も早いでしょうし、また、脚本や演出、舞台装飾や演技構成は、「宝塚大劇場」の高いポテンシャルを前提に作ることができますので、自分たちのやりたい表現がかなり高いレベルで実現できるでしょうし、さらには、他の劇場ではやりにくい挑戦的な試みもできるのではないでしょうか。

 そして、公演を通して、何よりも印象的だったのは、舞台上のタカラジェンヌたちのパワーとエネルギーの熱量でした。

 トップスター柚香光の少女漫画から飛び出してきたようなビジュアル、トップ娘役星風まどかの清々しい歌声、更に、次から次へと衣装チェンジをしていくショーのスピード感など、芝居やショーの見どころはたくさんありましたが、根底に流れている感動の源は、すべてのタカラジェンヌたちから発せられるあふれんばかりのエネルギーだと思います。とにかく全員が全力を出し切ろうと振り切れていて、そのエネルギーの熱量がビンビンと客席に伝わってくるのです。しかも、この日は一日2回公演でしたので、私が観終わった1時間半後には、彼女たちはまたこれと同じ演目を演じるというのです。「今と同じテンションでもう一度同じことをするのか?」と、とても信じられませんでした。

 タカラジェンヌから伝わるこのエネルギーの熱量は、私が初めて観た「はいからさんが通る」の華優希の体当たりの演技と共通するものだと思いますが、このエネルギーはどこから生み出されるのでしょうか?

 これはあくまで個人的な考えですが、タカラジェンヌはデビューしたあとも、退団するまでずっと生徒であり、研究生の立場にあるらしいのですが、このシステムが、彼女たちの演技に対する姿勢を謙虚にし、その謙虚さが逆に力強いエネルギーを生み出しているように思えるのです。自分はまだ半人前の研究生だとわきまえているからこそ、舞台上では初心者のごとく一生懸命、全力で演技することができ、その一生懸命さが客席に強いエネルギーを伝えるのではないでしょうか。一方で、彼女たちも人間ですから、「舞台の真ん中に立ちたい」とか、「トップスターになりたい」といった欲望が少なからずあるはずで、謙虚さの内側には秘めたる強い思いがマグマのように燃えたぎっているはずです。「はいからさんが通る」の華優希に感じ、今回、舞台を生で見て、すべてのタカラジェンヌに感じた底知れぬエネルギーの熱量は、彼女たちの謙虚さの裏返しであり、もしかしたらこの謙虚さとエネルギーのダイナミズムが、宝塚歌劇が長年培ってきた「タカラヅカ文化」の一つなのかもしれません。燃えたぎる情熱のマグマが謙虚さと言う「品格」を纏ったとき、タカラヅカ独特の熱量が観ている者に伝わり、客席は「幸福感」に包まれるのではないでしょうか。

 更に言うならば、今回、わたしが花組の公演を劇場で観て強く感じたことは、彼女たちは決して未熟な生徒でも研究生でもなく、紛れもなく「プロ」であるということでした。それは言わずもがなで、幼いころからバレエやダンスを習い、「宝塚音楽学校」という狭き門をくぐり抜けた精鋭が、そこで2年間みっちりと鍛えられ、「宝塚歌劇団」入団後は、年間4公演、200を超える舞台をこなし、日々、観客を目の前にして歌い、踊り、演ずるわけで、その経験値は若くして豊富で、研究生とは名ばかりです。その「プロ」であるジェンヌたちが謙虚に、かつ向上心を持ってたゆまぬ努力を惜しまないからこそ、人の心を打つ演技ができるのでしょう。

 そんな彼女たちを支えるのが、これまた一流の演出家や振付師であり、さらに、衣装、装置、道具、音響、照明、演奏などの熟練したスタッフが高い技術と情熱を注ぎこんで一つの舞台を作り上げていくのですから、その「エンターテイメント」としてのクオリティたるやたいしたものです。しかも、私が観劇したのは初日から間もなかったのですが、これだけ完成度の高い芝居とショーをたった1か月余りの練習で仕上げてしまうのですから、ジェンヌとスタッフのポテンシャルたるや恐るべしです。

 

この歳になって、タカラヅカの魅力に気付かせてくれた「はいからさんが通る」の華優希には、とても感謝していますが、惜しむらくはもう少し若いころに知っていたらなぁとも思います。ただ、タカラヅカというエンタメが今まで女性客にほぼ独占されて来たというのが不思議でなりません。男性でも十分楽しめるコンテンツだと感じたからです。タカラヅカ初心者の私が言うのもなんですが、もし、食わず嫌いでタカラヅカをご覧になったことが無い方は、是非一度観劇してみて下さい。芝居、ショー、パレードと続くフルコースは、「これでもか!」と感動のてんこ盛りで、きっとあなたを幸せな気持ちにしてくれることでしょう。

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