課税のインフラ整備をやり遂げた後は?

2023-09-30

いよいよ、明日からインボイス制度が開始される。

インボイス制度導入の目的の一つが消費税のステルス増税であることは以前にも述べたが、「益税」解消のためであれば、シンプルに免税制度を廃止するか、免税点を引き下げればよかったはずだが、免税制度に手を加えるとなると、消費増税が誰の目にも明らかとなり、内閣支持率や選挙のことを考えればその選択は難しく、そこで白羽の矢が立ったのがインボイス制度であり、政府はうまい隠れ蓑で増税の目的を達成したと言える。

しかし、そもそもインボイス制度自体に論理のすり替えがあることはあまり議論されていない。インボイス制度のもともとの目的は、消費税率が8%や10%の複数税率になった時に、仕入税額控除を厳密に行えるようにすることであった。そのためには、請求書に正確な税率を記載する必要があり、そのためには、請求書を発行する事業者が「課税事業者でなければならない」としたのである。実はこの「課税事業者でなければならない」というのが論理のすり替えであり、請求書を発行する事業者が課税事業者でなければ、複数税率の正確な計算ができないわけではない。免税事業者が発行する請求書についても、もし課税事業者であった場合と仮定して消費税率を記載すればそれで済んだはずだ。そういうやり方は、今でも消費税を計算するときに普通にやっていることである。しかし、課税当局の真の目的が免税事業者への課税だったので、免税事業者が発行する請求書では仕入税額控除ができないという理屈を作り出し、その理屈付けのために、複数税率の存在を巧妙に利用したのである。

ただ、インボイス制度導入の目的が消費増税だけにあったとは考えにくい。年間2~3千億円程度の消費増税のために、全事業者に多大な経理処理の負担を強いるのは得策ではないからだ。しかも、紙の領収証をいちいち確認しなければならないインボイス制度はデジタル化という時代の流れに逆行する。

実は、インボイス制度導入にはステルス増税以外にもう一つ重要な目的があると見られている。それは、全ての請求書や領収証に登録番号が記載されることで、国税庁による納税者の一元管理ができるようにしたことだ。いわゆる、登録番号によって、領収証一枚一枚に顔を張り付け、「顔認証」ならぬ「領収証認証」をできるようにしたのである。しかもこの登録番号は全法人が登記している履歴事項全部証明書の法人番号と一致させており、情報の一元化をしやすくしている。そして、「電子帳簿保存法」の導入と相まって、デジタルデータ化された請求書や領収証などの帳簿資料がビッグデータとして国税庁に集約され、課税のためのあらゆる場面で利用されるのだ。実はこちらの目的の方がインボイス制度の本丸と言える。

「インボイス制度」と「電子帳簿保存法」、更には「マイナンバー制度」という、「課税のインフラ整備」をやり遂げた課税当局は、今後満を持して、消費税のみならず、様々な税金の課税、徴収、そして管理を厳密にかつ網羅的にやって来ることだろう。

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