3月, 2024年
収受印を押さない税務署ってどうなの?
最近、税務署へ申告書を郵送したときに、次のような通知書が返送されてきます。
「令和7年1月から、申告書等の控えに収受日付印の押捺を行いません」と。
今までは、申告書や届出書を税務署へ郵送するときに、「控え」と「返信用封筒」を同封しておくと、「控え」に収受日付印(以下収受印という)が押印されて返却されてきましたが、令和7年1月からはそれが行われないという事です。この見直しは、郵送だけでなく、窓口で提出した場合でも同じだそうです。その理由は、「税務行政のデジタル化における手続きの見直しのため」という事だそうです。
デジタル化による税務手続きの簡素化は時代の流れですが、電子申告ができない納税者がまだまだ数多くいることを考えると、収受印の押印廃止は時期尚早ではないかと思われます。
また、電子申告がそぐわない申告だってあります。例えば、相続税のように納税者にとって一生に一度あるかないかの申告のために、相続人が電子申告の開始届をわざわざ提出し、利用者識別番号(→参照:「利用者識別番号の取得状況の確認」)を取得しなければならないのは納税者にとって要らぬ負担です。
そもそも、デジタル化がいくら進んだとしても、紙の申告が法的に認められている以上、収受印の押印を断る合理的な理由は税務署には無いと思うのですが。「デジタル化」と「収受したことの証明」は全く別の次元の話ですからね。
さて、収受印の押印がなぜ重要かと言うと、申告書控えに収受印が押印されていないと、期限内に申告したかどうかを納税者側で証明する手立てが無いからです。そして、申告期限を1日でも過ぎれば、期限後申告となり、無申告加算税などのペナルティが課せられたり、青色65万円控除などの期限内申告を要件とする特例が適用できなくなるからです。
国税庁のホームページでは、収受印に代え、納税者が申告書等を提出した事実を確認する方法として、次のように回答しています。
「書面で申告した場合であっても所得税の申告書等については、オンライン申請による『申告書等情報取得サービス』や『保有個人情報の開示請求』、『納税証明書の交付請求』により確認することも可能です。」と。
しかしこの方法は、提出日当日に、ちゃんと収受されたかを確認することが出来ないのが最大の欠点です。
つまり、税務署が収受後、何らかのミスで申告書を紛失したり、期限内の収受手続きを失念した場合、「控え」への収受印が無いことには、納税者側からは、期限内に申告したことを証明する方法が全くありません。要するに、「控え」への収受印の押印は、納税者のリスクヘッジという意味で、非常に重要な役割を果たしているのです。
もちろん、法定申告期限内に全額を納付し、かつ、法定申告期限から1カ月以内に申告書が提出されていれば無申告加算税は課税されないという宥恕規程はありますので、法定申告期限から1カ月以内に、上記の各種サービスで申告書が受理されているかを確認するという対処方法は残されています。しかし、新たに導入された「申告書等情報取得サービス」は、所得税の法定申告期限の3月15日から1カ月半が経過した5月1日にならないと情報が反映されませんので、そもそもこの宥恕規程が生かせないのです。また、この「申告書等情報取得サービス」は所得税のみがサービスの対象ですので、法人税や相続税など他の税目については打つ手なしということです。さらに、この方法は電子申請が大前提ですので、それができるぐらいなら最初から電子申告をしますよね。このように国税当局が提示する代替案では、収受印の押印廃止によって生じる納税者のデメリットを十分カバーしきれないことがわかります。
ここ数年のデジタル化により、税務署は手続きの簡素化を大幅に進めて来ました。国税庁の発表によると、所得税申告で65.7%、法人税申告にあっては91.1%が電子申告に移行したとのこと。今回の収受印の廃止はデジタル化が進んだ結果としての手続き上の見直しということですが、実は、「控え」への押印が廃止される一方、「提出用」には今まで通り収受印が押印されるそうです。「であるならば、ついでに『控え』にも押印して欲しい!」というのが納税者の率直な気持ちですよね。しかし、国税当局が敢えてそれをしないのは、そのひと手間が惜しいのではなく、穿った見方ですが、デジタル化を阻んでいる「電子申告が不得手なIT弱者」や「意図的に電子申告をしない人たち」に不利益を強いることで、電子申告をせざるを得ない状況に追い込むことが本当の目的だからではないかと勘繰りたくなります。インボイス制度導入による消費税のステルス増税しかり、なし崩し的に現状変更をして行くやり口は財務省の常套手段ですからね。
最期に、我々税理士の立場からすると、クライアントの事情や申告の状況によっては、紙で申告をせざるを得ない場合があり、「控えに」収受印が貰えないと、期限内に申告したことをクライアントに証明する手立てがありません。また、新たにクライアントになった事業主から、ご本人さんが紙で提出した開業関連の届出書を見せてもらう時に、例えば「青色申告承認申請書控え」に収受印が無かったり、「控え」そのものが無ければ、期限内に提出されているかどうかの判断がつきません。提出されているかどうか、期限内かどうかを知るためには、税務署への照会というひと手間を要することになります。税理士は、常に納税者と税務署の板挟みになりやすい立場ですので、収受印の押印廃止は我々税理士にとっては、申告方法の選択肢が狭められ、リスクと手間ばかりが増える改悪と言っても過言ではないでしょう。
通勤手当に社会保険料を負担させるのは合理的か?
確定申告も佳境に入ってきましたが、今回はちょっと息抜きに、通勤手当に掛かる社会保険料について考察したいと思います。
顧問先の従業員の方からお聞きする不満として、「通勤手当にも社会保険料が掛かっているのはおかしくないですか?」というものです。確かに、通勤手当は支給されても定期代などに消えてしまいますので、手元に残らないものに社会保険料を負担させるのは、担税力という観点から、おかしいと感じるのは当然のことですよね。同じ30万円の給与を貰っていて、通勤手当が3万円の人は、勤め先の近くに住んでいて通勤手当が無い人に比べ、手取額がおよそ4,000円少なくなるわけですから。
税金の面では通勤手当は非課税ですからなおさらそう感じますよね。
そこで、通勤手当に社会保険料を負担させることが合理的かどうか、そこに不公平は無いかどうか、通勤手当を貰っている人と貰っていない人を比較して、通勤手当に負担させた社会保険料と、それによって将来受け取れる老齢年金の増加額をシミュレーションしてみましたので、ご一読ください。
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