「無期労働契約」に転換できることを契約書に明示する義務が発生します

2024-01-11

今年の4月以降、有期労働契約書に「契約更新の上限の有無と、更新上限がある場合の内容」、そして、「無期転換の申込機会と、転換後の労働条件」の明示が義務化されます。

どういうことかと言いますと、もともと、2013年4月以降の「有期労働契約」については、契約社員・パート・アルバイトに関わらず、契約期間が5年を超えたら「無期労働契約」に転換できる規定はあったのですが、2024年4月以降は、その内容を契約書に明示する義務が新たに発生するということです。つまり、「有期」から「無期」へ転換できる労働者の権利を契約書に明示することで、労働者に対してその権利を周知徹底しようという主旨です。

具体的にどのように記載するかですが、「更新上限の有無と、更新上限がある場合の内容」について言えば「更新上限有り。更新回数3回、通算契約期間4年まで」と言うように記載します。「無期転換の申込機会と、転換後の労働条件」について言えば「本契約期間中に無期労働契約を申し込んだときは、本契約期間の末日の翌日から、無期労働契約での雇用契約に転換することが出来る。労働条件については別紙の通り」というように記載します。「有期労働契約書」に以上のような項目を記載することで、労働者が「5年を超えれば無期契約に転換できる」という権利を知ることが出来きるわけで、労働者にとって有利な法改正です。もし記載がない場合は罰則規定もありますので、経営者の皆さんは注意してください。

 

ところで、今回の法改正に触れたとき、劇団員の自殺問題の渦中にある宝塚歌劇団の、「雇用契約」及び「業務委託契約」について、なるほどと思ったことがあります。

宝塚歌劇団では、5年目までの劇団員とは1年更新の「有期雇用契約」を結んでいますが、6年目以降は1年更新の「業務委託契約」に移行するそうです。その理由として、役者としてのスキルが身に着くであろう6年目頃からは一人前のタレントとして扱おうということなのかと思っていました。もちろんそういう主旨もあるとは思いますが、「雇用契約」が「1年更新の有期契約」であると言うことからすると、劇団の現実的な採用事情が見え隠れします。1年更新の「有期雇用契約」だと、5年目までは1年ごとに劇団員との雇用契約を見直すことが出来き、辞めてもらいたい劇団員を劇団の都合で辞めさすことが出来ますが、5年を超えて雇用契約を継続してしまうと、「有期契約」から「無期契約」に移行せざるを得ず、劇団の都合で辞めさすことが出来なくなるという不都合が生じます。おそらく、それを解消するために、有期から無期への転換の無い「業務委託契約」に移行させ、契約期間満了と同時に契約を打切ることができるようにしているのではないかと思います。なるほど、6年目で「雇用契約」から「業務委託契約」に移行する理由はそう言うことかと私なりに腑に落ちたのですが、もちろん劇団がどのような意図を持っているのか、本当のところはわかりません。

このような契約のやり方が企業倫理として問題があると言っているわけではありません。劇団としては入団1年目から「業務委託契約」にすることも可能なわけで、あえて「雇用契約」でスタートしているのは、もしかしたら、未熟な劇団員の収入を確保してあげるためなのかもしれません。それに、宝塚以外の外部の劇団を見ると、未熟な新人と雇用契約をしてくれるようなところはほとんど無く、大抵の売れない役者はアルバイトに時間を費やしながら苦労して役を勝ち取ろうとしているわけで、入団1年目から役が無くても給料が有り、役者修行に専念でき、かつ、「タカラジェンヌ」という憧れの対象でいられる宝塚の劇団員は恵まれているのかもしれません。

いずれにしても、劇団にとって「スターシステム(※各組トップスターを頂点とした宝塚独自の組織運営システム)による劇団員の新陳代謝は必須であり、毎年40人の新人を受入れるためには、40人に辞めてもらうしかなく、「業務委託契約」への移行は苦肉の策なのでしょうね。

なお、実際に劇団員が劇団側から退職勧奨をされて退団するパターンが多いのか、もしくは自ら退団を決意し退団するパターンが多いのか、そこになんらかの暗黙の了解のようなものがあるのかわかりませんが、個人的には、劇団員の皆さんが宝塚での役者人生を全うされて退団されることを願っています。

 

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