Archive for the ‘お知らせ’ Category

確定申告必要書類チェックリスト

2024-02-05

顧問先様各位

今年も確定申告の時期が近づいて参りましたので、「確定申告必要書類チェックリスト」をご参考に、確定申告のご準備をお願いいたします。       薮内税理士事務所

確定申告必要書類チェックリスト ← クリックして下さい。

 

 

「無期労働契約」に転換できることを契約書に明示する義務が発生します

2024-01-11

今年の4月以降、有期労働契約書に「契約更新の上限の有無と、更新上限がある場合の内容」、そして、「無期転換の申込機会と、転換後の労働条件」の明示が義務化されます。

どういうことかと言いますと、もともと、2013年4月以降の「有期労働契約」については、契約社員・パート・アルバイトに関わらず、契約期間が5年を超えたら「無期労働契約」に転換できる規定はあったのですが、2024年4月以降は、その内容を契約書に明示する義務が新たに発生するということです。つまり、「有期」から「無期」へ転換できる労働者の権利を契約書に明示することで、労働者に対してその権利を周知徹底しようという主旨です。

具体的にどのように記載するかですが、「更新上限の有無と、更新上限がある場合の内容」について言えば「更新上限有り。更新回数3回、通算契約期間4年まで」と言うように記載します。「無期転換の申込機会と、転換後の労働条件」について言えば「本契約期間中に無期労働契約を申し込んだときは、本契約期間の末日の翌日から、無期労働契約での雇用契約に転換することが出来る。労働条件については別紙の通り」というように記載します。「有期労働契約書」に以上のような項目を記載することで、労働者が「5年を超えれば無期契約に転換できる」という権利を知ることが出来きるわけで、労働者にとって有利な法改正です。もし記載がない場合は罰則規定もありますので、経営者の皆さんは注意してください。

 

ところで、今回の法改正に触れたとき、劇団員の自殺問題の渦中にある宝塚歌劇団の、「雇用契約」及び「業務委託契約」について、なるほどと思ったことがあります。

宝塚歌劇団では、5年目までの劇団員とは1年更新の「有期雇用契約」を結んでいますが、6年目以降は1年更新の「業務委託契約」に移行するそうです。その理由として、役者としてのスキルが身に着くであろう6年目頃からは一人前のタレントとして扱おうということなのかと思っていました。もちろんそういう主旨もあるとは思いますが、「雇用契約」が「1年更新の有期契約」であると言うことからすると、劇団の現実的な採用事情が見え隠れします。1年更新の「有期雇用契約」だと、5年目までは1年ごとに劇団員との雇用契約を見直すことが出来き、辞めてもらいたい劇団員を劇団の都合で辞めさすことが出来ますが、5年を超えて雇用契約を継続してしまうと、「有期契約」から「無期契約」に移行せざるを得ず、劇団の都合で辞めさすことが出来なくなるという不都合が生じます。おそらく、それを解消するために、有期から無期への転換の無い「業務委託契約」に移行させ、契約期間満了と同時に契約を打切ることができるようにしているのではないかと思います。なるほど、6年目で「雇用契約」から「業務委託契約」に移行する理由はそう言うことかと私なりに腑に落ちたのですが、もちろん劇団がどのような意図を持っているのか、本当のところはわかりません。

このような契約のやり方が企業倫理として問題があると言っているわけではありません。劇団としては入団1年目から「業務委託契約」にすることも可能なわけで、あえて「雇用契約」でスタートしているのは、もしかしたら、未熟な劇団員の収入を確保してあげるためなのかもしれません。それに、宝塚以外の外部の劇団を見ると、未熟な新人と雇用契約をしてくれるようなところはほとんど無く、大抵の売れない役者はアルバイトに時間を費やしながら苦労して役を勝ち取ろうとしているわけで、入団1年目から役が無くても給料が有り、役者修行に専念でき、かつ、「タカラジェンヌ」という憧れの対象でいられる宝塚の劇団員は恵まれているのかもしれません。

いずれにしても、劇団にとって「スターシステム(※各組トップスターを頂点とした宝塚独自の組織運営システム)による劇団員の新陳代謝は必須であり、毎年40人の新人を受入れるためには、40人に辞めてもらうしかなく、「業務委託契約」への移行は苦肉の策なのでしょうね。

なお、実際に劇団員が劇団側から退職勧奨をされて退団するパターンが多いのか、もしくは自ら退団を決意し退団するパターンが多いのか、そこになんらかの暗黙の了解のようなものがあるのかわかりませんが、個人的には、劇団員の皆さんが宝塚での役者人生を全うされて退団されることを願っています。

 

今年の漢字は「税」。大谷翔平1000億円の契約と「税」について

2023-12-27

今年の漢字は意外にも「税」に決まりました。インボイス制度の導入やふるさと納税のルールの厳格化、わずか4万円の定額減税や防衛費増税など、税にまつわる鬱陶しい話題が多かった為でしょうが、でもやはり、「税」が選ばれた一番の理由は「増税メガネ」とあだ名された誰かさんの所為でしょうね。

そんな重税感に覆われた不景気な日本経済を横目に、大谷翔平10年1000億円の北米プロスポーツ史上最高額の契約を果たしました。1000億円の金額については何となく予想できましたが、総額1000億円のうち97%の970億円を10年後からの後払いにするという異例の契約には驚きました。しかもその提案は大谷から出されたようで、目的はドジャースの選手補強のための資金的余力を残すためだということ。大谷はそれほどまでして優勝がしたいんでしょうね。

ところで、この後払いについては賛否両論ありますが、「大谷は節税のために後払いにしているのじゃないか」という批判がちらほら見られます。現役時代は州税の高いカリフォルニア州でもらう報酬額を抑え、退団後は州税の安い州に転居し、州税を節税しようというものです。しかし、この批判は的を射たものではありません。州税だけを見れば節税できますが、トータルの手取額は後払いより、現役時代に毎年100億円ずつ貰う方がかなりお得です。

では、どのぐらいお得なのか、「税」「利息」に着目して確かめたいと思います。

なお、前提条件は次の通りです。税率は最初の10年間はカリフォルニア州の州税13.3%を含め55%、退団後の10年間は州税が0%の州に転居し41.7%。金利は年利5%の1年複利で計算をします(なお、利息に対する税金は今回無視します)。

 

1.まず、今回大谷が締結した後払いの契約を見てみましょう。

現役10年間では毎年3億円の報酬、ドジャース退団後の11年目からの10年間で残り970億円を、毎年97億円ずつ貰うスキームです。

この場合、最初の10年間でもらう税引後の報酬は13.5億円、利息は4.5億円合計18億円となります。

その後、11年目から10年間でもらう税引後の報酬は565.5億円、利息は192.5億円合計758億円となります。

20年間のトータルは、税引後の報酬は579億円、利息は197億円合計で776億円になります。

 

2.次に、現役1年目から報酬を100億円ずつ貰う場合です。

現役10年間で毎年100億円ずつ報酬をもらい、総額1000億円を現役10年間で貰い切るスキームです。

この場合、最初の10年間でもらう税引後の報酬は450億円、利息は144億円合計594億円となります。

その後、11年目から10年間でもらう税引後の報酬は0円、利息は374億円合計374億円となります。

20年間のトータルは、税引後の報酬は450億円、利息は518億円合計968億円になります。

 

968億円-776億円=192億円。 その差192億円!

後払いの方は州税の節税が129億円できますが、現役1年目から100億円ずつもらった方が20年間の利息が321億円も多くなりますので、現役1年目から普通に100億円ずつもらう方が、20年間での手取額は192億円もお得になるわけです。

よって、大谷は後払いにしたからと言って決して得しているわけではありません。こんな計算は代理人が計算済みだと思いますが、192億円を損してでもワールドシリーズ優勝を優先した大谷は、やはり規格外だなと思いました。

今年の漢字は「税」ですが、大谷にとって「節税」とか「利息」なんて下世話な話はあまり関心がないのでしょうね。

藤井聡太 史上初の八冠全冠制覇!!

2023-10-11

本日、第71期王座戦・第四局で、藤井聡太竜王名人が、永瀬拓矢王座を破り、羽生善治の七冠独占を超え、八冠全冠制覇を達成した。

最終盤、藤井の負けがはっきりとしたその瞬間、永瀬が指した123手目、5三馬が敗着となり、大逆転となった。

敗着手を指した直後、永瀬が頭を掻きむしり、自分のミスを悔しがるシーンがとても印象的で、見ている私も胸を締め付けられるような思いになった。

一将棋ファンとして、この世紀の大一番を提供してくれた、藤井聡太と永瀬拓矢の両対局者には「本当にありがとう」と伝えたい。

課税のインフラ整備をやり遂げた後は?

2023-09-30

いよいよ、明日からインボイス制度が開始される。

インボイス制度導入の目的の一つが消費税のステルス増税であることは以前にも述べたが、「益税」解消のためであれば、シンプルに免税制度を廃止するか、免税点を引き下げればよかったはずだが、免税制度に手を加えるとなると、消費増税が誰の目にも明らかとなり、内閣支持率や選挙のことを考えればその選択は難しく、そこで白羽の矢が立ったのがインボイス制度であり、政府はうまい隠れ蓑で増税の目的を達成したと言える。

しかし、そもそもインボイス制度自体に論理のすり替えがあることはあまり議論されていない。インボイス制度のもともとの目的は、消費税率が8%や10%の複数税率になった時に、仕入税額控除を厳密に行えるようにすることであった。そのためには、請求書に正確な税率を記載する必要があり、そのためには、請求書を発行する事業者が「課税事業者でなければならない」としたのである。実はこの「課税事業者でなければならない」というのが論理のすり替えであり、請求書を発行する事業者が課税事業者でなければ、複数税率の正確な計算ができないわけではない。免税事業者が発行する請求書についても、もし課税事業者であった場合と仮定して消費税率を記載すればそれで済んだはずだ。そういうやり方は、今でも消費税を計算するときに普通にやっていることである。しかし、課税当局の真の目的が免税事業者への課税だったので、免税事業者が発行する請求書では仕入税額控除ができないという理屈を作り出し、その理屈付けのために、複数税率の存在を巧妙に利用したのである。

ただ、インボイス制度導入の目的が消費増税だけにあったとは考えにくい。年間2~3千億円程度の消費増税のために、全事業者に多大な経理処理の負担を強いるのは得策ではないからだ。しかも、紙の領収証をいちいち確認しなければならないインボイス制度はデジタル化という時代の流れに逆行する。

実は、インボイス制度導入にはステルス増税以外にもう一つ重要な目的があると見られている。それは、全ての請求書や領収証に登録番号が記載されることで、国税庁による納税者の一元管理ができるようにしたことだ。いわゆる、登録番号によって、領収証一枚一枚に顔を張り付け、「顔認証」ならぬ「領収証認証」をできるようにしたのである。しかもこの登録番号は全法人が登記している履歴事項全部証明書の法人番号と一致させており、情報の一元化をしやすくしている。そして、「電子帳簿保存法」の導入と相まって、デジタルデータ化された請求書や領収証などの帳簿資料がビッグデータとして国税庁に集約され、課税のためのあらゆる場面で利用されるのだ。実はこちらの目的の方がインボイス制度の本丸と言える。

「インボイス制度」と「電子帳簿保存法」、更には「マイナンバー制度」という、「課税のインフラ整備」をやり遂げた課税当局は、今後満を持して、消費税のみならず、様々な税金の課税、徴収、そして管理を厳密にかつ網羅的にやって来ることだろう。

内需主導型の日本で、消費税の増税は自らの首を絞める

2023-09-23

先日、経団連は2024年度税制改正に関する提言において、「少子化対策を含めた社会保障制度の財源確保の手段として、中長期的な消費税の増税が有力な選択肢の一つである」と明言した。今までも、経団連によるこのような提言はされて来たが、それにしても、経済界を代表する組織が景気にとってマイナスとなる消費増税に常に前向きな姿勢であるのはどうしてだろうか?この理由については何人かの専門家が興味深い見解を示している。

一つは、消費税が社会保障費の財源に充てられるようになった現状では、企業がその半分を負担する社会保険料のアップよりも、消費者に広く負担を求める消費税アップの方が企業の負担が少ないからということ。

もう一つは、輸出免税による消費税の還付額は消費税率が高いほど増加するので、輸出企業が多く所属する経団連にとって消費税の増税はむしろメリットであるということ。

以前であれば、たとえ経団連に所属する大企業にメリットがあったとしても、消費増税については中小企業を含めた経済全体への影響が大きいので、経済団体のトップが表立って消費増税を容認することは少なかったと思うが、2012年の「社会保障と税の一体改革」により消費税が社会保障費の財源に認められたことを契機に、まるでお墨付きをもらったように、こういう提言が堂々とされるようになってきた。

いずれの理由も、経団連に所属する大企業にとってはメリットがあるかもしれないが、日本経済全体にとって、消費税の増税が本当に良いことなのかどうか一考の余地があるように思われる。

 

ところで、経団連が消費増税を容認している理由の一つに「輸出企業は消費税還付で得をするから」というのがあるが、輸出企業が消費税還付で丸得しているわけではない。

例えば、内需100%の企業と、輸出100%の企業について、消費税率の変化がキャッシュフローにどう影響するかを、消費税率が0%と10%で比較してみる。

1.消費税率0%

内需企業、輸出企業共に

仕入80+消費税0=80  売上100+消費税0=100

利益 100-80=20    消費税 0-0=0

キャッシュ残高 20-0=20

 

2.消費税率10%

内需企業

仕入80+消費税8=88  売上100+消費税10=110

利益 110-88=22    消費税 10-8=2 →納税

キャッシュ残高 22-2=20

輸出企業

仕入80+消費税8=88  売上100+消費税0=100

利益 100-88=12    消費税 0-8=-8 →還付

キャッシュ残高 12+8=20

 

以上の比較から、内需企業も輸出企業も、消費税率にかかわらず税引後のキャッシュ残高は20で、全く差がないことがわかる。よって、「輸出企業が消費税還付で得をしている」という言い方は正しくない。

ただ、輸出企業が優遇されていないわけではなく、輸出企業については輸出振興策の一貫として、国内の消費税に影響されないように税制が作られている。日本の消費税率が0%であろうが、10%であろうが、その税率に関係なく、それまでと同じ100で輸出できる仕組みとなっているのだ。よって、消費税率が変わっても輸出価格は変わらないので、購入する海外の企業や消費者は購買行動を変えることはなく、輸出企業は消費税が増税されたからと言って、売上が下がることはないのだ。

一方、内需主導の企業の場合、消費税率が上がると日本国内の消費者の購買行動が変わるので、消費税の増税に大きく影響を受ける。

例えば、1個10円の商品を100個販売する企業があるとして、消費税率が0%の時は、その売上高は1000円(10円×100個)である。

しかし、もし、消費税率が10%となった場合1個当たりの単価は税込みで11円(本体価格10円+消費税1円)となり、購入側の購買力が1000円と変わらない場合、90個しか売れなくなる。(計算は1000円÷11円=90個)。10個が売れ残ることになるのだ。この場合のこの企業のキャッシュ残高を計算すると、消費税が無い場合は1000円が丸々企業の手元に残り、消費税が10%の場合は、910円しか残らない。(計算は売上高1000円-消費税納税額90円(1円×90個)=910円)。つまり、購買力1000円のうち90円が税金として国のものになり、企業の取り分は910円となる。企業に残るお金は消費税導入前より90円減るのである。企業が同じ努力をして、取り分が90円減るわけだから、企業収益が圧迫されるのは当然であり、企業収益が圧迫されれば、人件費などの経費を削減したり、将来への投資を減らしたりと、日本国内の景気は縮小せざるを得なくなる。

つまり、輸出企業が大半の国であれば、消費税を上げても影響は少ないが、内需企業が多い国の場合、消費税の増税は国内景気に強く影響を及ぼしてしまうのだ。

 

日本が「輸出依存型」の国であれば消費増税の影響は比較的少なくて済むが、残念ながら日本は「内需主導型」の国である。それをわかりやすく示しているのが、「対GNP輸出依存度」というものであり、日本の「対GNP輸出依存度」は約18%である。裏を返せば、内需依存度が82%ということだ。

ちなみに、諸外国の「対GNP輸出依存度」は、オランダ83%、ドイツ47%、スウェーデン46%、ノルウェー38%、カナダ31%で、輸出依存度が30%を超えている国はその他に、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、オーストリア、デンマークなど、ヨーロッパ主要国のほとんどが30%を超えている。数字を見れば火を見るより明らかで、日本の輸出依存度はヨーロッパ諸国に比べ遥かに低い。つまり、日本はGNPの8割以上を内需に依存している「内需主導型」の国であり、消費税の増税は国内経済にダイレクトに響いてくるのだ。

実は、EU加盟国の消費税率は最低15%と決められていることもあり、消費税率が20%を超えている国は、ヨーロッパ諸国が圧倒的に多く、ヨーロッパ諸国が高い消費税率に耐えられるのは、一つには、輸出依存度が高いからと言える。ちなみにアメリカの輸出依存度は12%で日本より低く、そのアメリカは消費税を導入していない。

あまり知られていないが、アメリカではヨーロッパ型の付加価値税(消費税)は導入されておらず、州ごとに売上税があるだけである。税率も0%から約10%で平均7%ぐらいと、日本よりも低い。しかもアメリカの納税の仕方は、日本やヨーロパの付加価値税のように、全ての事業者が売上の消費税から経費の消費税を差引いて納税するのではなく、最終消費者を相手にする事業者だけが顧客から預かった売上税を顧客に代わって直接納付する仕組みとなっている。ゴルフをされる方ならご存知だと思うが、アメリカの売上税はゴルフ場利用税とよく似た税金なのだ。アメリカがヨーロッパ型の付加価値税を導入しないのは、一つには各州ごとに経済事情が違うことを考慮してのことだろうし、また、内需主導型のアメリカ経済にとって、付加価値税が景気の足を引っ張ることを良くわかっているからであろう。

 

さて、10月1日からはインボイス制度も開始され、今まで消費税が免除されていた事業者も消費税を納めざるを得なくなる。消費税については増税の話題しかないが、日本における法的な消費税の増税は、1989年に消費税が日本に初めて導入されて以来34年間で、3%から5%(1997年)、5%から8%(2014年)、8%から10%(2019年)の3度あった。その増税のたびに日本の景気は腰折れし、1990年のバブル崩壊以降、日本は未だデフレのトンネルから抜け出せずにいる。いや、デフレどころか、ウクライナ戦争や円安、半導体不足やオイル高による「インフレ」と、「景気後退」が同時に起こる「スタグフレーション」に突入してしまった感がある。

そんな中で、令和4年の日本の税収が史上最高の70兆円を記録したと聞くと、「獣を得て人を失う」とは正にこの事かと呆れざるを得ない。

大谷翔平 パイオニアとしての宿命

2023-08-25

アメリカ現地、8月23日、シンシナティ・レッズとのダブルヘッダーの1試合目、1回裏に第44号本塁打を放った直後の2回表、投手としてマウンドに立った大谷翔平は腕の違和感を訴え途中降板した。にもかかわらず、大谷はダブルヘッダーの2試合目に打者としてフル出場した。その姿を見て、「大谷の途中降板は大したことはなかったのか」とほっと胸をなでおろした矢先、エンジェルスのGMペリー・ミナシアンが試合後の記者会見で語った言葉は衝撃的だった。「大谷は右肘靱帯を損傷しており、今期残り試合は登板しない」と。

この記者会見を受けて、「なぜ、2試合目に出場させたのか」という批判がネット上で相次いだ。もしこれと同じことが日本ハム時代の大谷に起これば、栗山監督がダブルヘッダーの2試合目に大谷を出場させることはまずなかったであろう。

しかし、大谷を2試合目に出場させた球団側の判断を一概に批判することは出来ない。というのも、これはアメリカと日本の文化の違いから来る見解の相違だと言えるからだ。アメリカは個人主義の国であり、自己責任の国である。自分の命を守るために市民が拳銃を所持する国であり、自分を守るのは自分しかいないと考える国民性だ。ミナシアンGMは大谷が出場したいと言ったから出場させたと言う。エンジェルスのフィル・ネビン監督も普段から、大谷が出場したいと言えばそれを最大限に尊重し、ダブルヘッダーの1試合目に登板した直後の2試合目にでも打者として出場させている。我々から見れば球団が大谷に無理をさせているように見えるが、大谷が出場したいと言ったからには、それを言った大谷に責任があるというのがメジャーの考え方なのである。自分の体を守るのは球団でも監督でもなく自分自身であり、無理して出場して怪我をしても誰も責任を取ってくれない。

大谷のストイックな精神や「フォア・ザ・チーム」の考え方は、アメリカの個人主義の考え方、さらにはアメリカ商業主義の考え方の前では、自分を守るという意味では甘かったと言わざるを得ない。アメリカ流のフォア・ザ・チームの考え方は自分が犠牲になってまでもチームのために貢献することではないのだ。そして、「個人経営者」の選手たちは、アメリカ商業主義の中で、自分の商品価値をいかに高め維持していくかを考えている。無理して、怪我して、自分の商品価値を下げることは、彼らの経営理論にはないのである。現に、エンジェルスのマイク・トラウトやヤンキースのアーロン・ジャッジは少しでも体調が悪かったり、怪我をしたら遠慮無く休むではないか。それは自分の商品価値を下げないためなのだ。

しかし、大谷は昨日まで、全128試合中126試合に出場し、たった、2日しか休んでいないのである。しかも、今年はWBC出場という特殊事情も重なり、いつも以上にハードワークを強いられた。7月以降の腕のけいれんや腰痛は、体が悲鳴を上げていた証拠であり、誰の目から見ても体を酷使し過ぎていることがわかる。ただ、今年のエンジェルスは、8月前半まではポストシーズン出場の可能性があり、トラウトなどの主力選手がいない中、大谷はその性格上チームの勝利のために休むことができなかった。本来であればもう少し休養を取るべきだったが、大谷の責任感がそれを許さなかった。その結果、彼は自分の商品価値を大きく損ねてしまったのだ。しかも、フリーエージェント直前の最悪のタイミングで。

彼の日本人的な責任感の強さを良しとするのか、郷に入っては郷に従えで、アメリカ的なドライな個人主義を取り入れるべきだったのか、野球観や人生観にかかわる問題なので何とも言えないが、すべてはプロである彼が選択したことなのである。

ただ、彼を擁護するならば、彼はメジャー史上初めて、本格的な二刀流を体現しているパイオニアであり、パイオニアだからこそ、答えの無い壁にぶち当たっているのである。二刀流の体力的限界、なかんずく、体力の消耗が右肘靱帯にどう影響するかなんて、エンジェルスのGMや監督がわかるはずもなく、大谷自身でさえ、その明確な答えを持ち合わせていないだろう。特に昨シーズン、怪我をすること無く157試合に出場し、「規定投球回数」と「規定打席数」を同時に達成したがために、大谷だけは不死身であるという変な思い込みが、周りにも大谷自身にもあったことは否めない。今振り返れば、もっと休養を取るべきだったと言えるが、それは結果論であり、今回の怪我は、大谷が二刀流のパイオニアであるが故に避けて通れなかった「代償」であり、「パイオニアの宿命」として受入れるしかなかったことなのかもしれない。

藤井聡太、史上初の8冠独占を目指して 

2023-08-05

とうとう、史上初、8冠独占の挑戦権を得た藤井聡太。豊島九段との「王座戦・挑戦者決定戦」は159手に及ぶ、逆転に次ぐ逆転の死闘であった。

午前9時に始まった対局は、夕食休憩を挟み藤井がリードを広げていたが、105手目、藤井の1六香で形勢が怪しくなり豊島が逆転。

その後、両者秒読みとなり一進一退が続くが、118手目、豊島の3四玉で一気に藤井が有利になり再逆転。

そこからは藤井が手堅い手の連続で勝利を手元に引き寄せたかに見えたが、134手目、豊島が敵に勝負を預けるような手、7八と金を指した直後、秒読みに追われた藤井が慌てて3三歩と打ってしまい形勢は再々逆転。この時、時計の針は既に夜9時に迫っていた。

どちらも持ち時間を使い切り、1分将棋のピリピリした緊張感に包まれた関西将棋会館の御上段の間。そこには歴代永世名人たちの掛け軸が飾られている。

木村十四世名人の「天法道」、大山十五世名人の「地法天」、中原十六世名人の「人法地」、そして谷川十七世名人の「道法自然」の四幅である。この四幅は「人は地に、地は天に、天は道に、そして道は自然に法る」と、四幅で一つの意味を為し、「人はただ、自然に法り生きていけばいい」という意味があるらしい。では勝負に生きる棋士たちにとって、「自然に法り生きる」とはいったいどういうことなのだろうか。逆転に次ぐ逆転の死闘を演じる藤井と豊島の対局を見ていて、自然に法った指し手とは、自然に法った棋士の姿勢とはいったい何なのかを考えさせられる。

さて、勝負は、134手目以降、コンピューターの評価値的には豊島がリードを保ちながら、一進一退の攻防が続づいていたが、藤井の6七桂馬に対して豊島が指した150手目6五玉と玉が横に逃げる手が結果的には敗着となった。6五玉は一見自然な手に見えたが、コンピューターは5四玉と玉を引く手を最善手に挙げていた。5四玉であれば、まだまだ豊島のリードが続くと評価していたのだ。しかし、それはあくまでコンピューターの評価。12時間を超える死闘の中で、しかも秒読みに追い込まれた人間の判断力には限界があるということだ。コンピューターは、藤井の次の手を、6六歩以外はすべて藤井が大逆転されると予測した。果たして藤井はその最善手を指すことができるのか。1分将棋という緊迫した中で、その最善手6六歩をきっちりと指し切った藤井は流石であった。

こうして、12時間を超える大熱戦は159手目、藤井の4五龍に、豊島が投了し終局となった。

とても見ごたえのある一局で、一見、自然に見える指し手が実は敗着だったという、勝負の皮肉さと非情さを感じさせる熱戦であった。そして、藤井、豊島という将棋界の頂点に立つ二人でさえ、極限状態ではミスをしてしまうんだということ、将棋という勝負は人間がミスをするからこそ面白いのだということを改めて感じさせてくれた。

ミスをするから面白いとは、必死で指している棋士達には失礼な言い方だが、将棋は先手と後手が初手からミスをせず、「自然な手」を指し続けて均衡を保っていくゲームであり、どちらかがミスをするからこそ勝負が決するゲームなのである。よく「逆転の妙手」という表現が使われるが、一手を指して評価値が劇的に上がるような「逆転の妙手」は無く、評価値が動くときは必ずミスをしたときなのである。もちろん、「羽生マジック」のような、ある一手が相手のミスを誘うような意味での妙手はあり得るが。要するに、将棋の醍醐味は、どんなミスが出るのかを期待することであり、ミスの前後が最もドラマチックな場面なのだ。

このように、棋士にとって将棋とは、ミスを宿命づけられた非情なゲームなのである。御上段の間のあの四幅の掛け軸は、そんな非情な勝負に没頭する棋士たちに、優劣の均衡を保つ「自然な手」を指し続けることが棋士としての究極の目標であるということ、そして、「自然な手」を指すことこそが最も難しいことであるということを静かに語りかけているのではないだろうか。

さて、8月31日から始まる永瀬拓矢との「王座戦・五番勝負」は、史上初の8冠独占が掛かった、将棋界最大の注目シリーズとなる。藤井聡太によって、レジェンド羽生善治を超える大偉業は果たして達成されるのか、今から楽しみでならない。

大谷翔平はベースボールを世界のスポーツに変える

2023-08-01

先日、大谷翔平は、ダブルヘッダーの1試合目に完封勝利をし、そして、その40分後に行われた2試合目に2打席連続の本塁打を放った。これはメジャー史上初の快挙である。

大谷がメジャーリーグで活躍し始めてから、何度、「メジャー史上初の快挙」という言葉を耳にしただろう。

現時点での、大谷の本塁打数は両リーグ最多の39本で、年間60本ペースで量産している。しかも、投手として9勝を挙げ、奪三振数は既に150を超えている。これらの数字を見ただけで、彼がとてつもないことをやっていることは誰の目にも明らかだが、彼の成績をもう少し詳しく見ていくと、そこに並ぶ数値の凄さにわれわれは更に驚愕させられる。

そこで、2023年7月31日時点での、大谷翔平のスタッツを見てみよう。

【打撃成績】

打率.305(4位)、本塁打数39(両1位)、打点81(2位)、得点81(2位)、安打数120(3位)、塁打数268(両1位)、三塁打数7(両1位)、四球67(1位)、出塁率.407(1位)、長打率.680(両1位)、OPS1.087(両1位)、打席数472(4位)、盗塁数12(22位)

【投手成績】

防御率3.431(11位)、勝利数9(7位)、奪三振156(3位)、勝率.643(10位)、奪三振率11.64(2位)、被打率0.185(両1位)、完封1(両1位

(※カッコ内の順位はアメリカンリーグの順位。ただし、両とあるのは両リーグ合わせた順位)

まず打撃成績だが、両リーグ合わせての1位が、本塁打数39、塁打数268、三塁打数7、長打率.680、OPS1.087の五部門、アメリカンリーグ1位が四球数67、出塁率.407の二部門、合計7部門で1位なのだ。アメリカンリーグのみならず、両リーグ30チーム、レギュラー打者約270人の頂点に、5部門にも渡り君臨しているのが大谷翔平という男なのである。しかも、打者を評価する上で最も重視されている数値、OPS(出塁率と長打率を足した数値)が両リーグを通じて1位なのである。OPSはチームの勝利に最も貢献した打者をできるだけ正確に表す数値として、メジャーリーグではかなり以前から採用されている。投手である大谷が、最高の打者の証OPSで、両リーグ1位というのが、本当に、本当に凄いことなのだ。ちなみに、あのイチローがシーズン最多安打262を記録した2004年のOPSでさえ、0.869に過ぎない。

これだけの数値を残せば、打者単独でも十分MVPに値する成績だが、二刀流の大谷はその上に、まだ、投手成績を加味しなければならない。

投手成績は、今年、ピッチクロックの導入や牽制球の制限、更には極端な守備シフトの禁止など、投手に不利となるルール変更が行われたせいか、勝利数15、防御率2.33を記録した昨年ほどの数値ではないが、しかし、どの部門もほぼ10位以内であり、その中でも奪三振率11.64の2位、そして、被打率0.185の両リーグ1位は出色の数値である。被打率とは投手がヒットを打たれる率で、数値が低いほど良い。被打率が0.185ということは、つまり、10人の打者に対して1.85人にしかヒットを打たれないということである。両リーグ30チーム、約180人の先発投手の中で最もヒットを打たれる確率の低い投手が大谷なのだ。

大谷の凄さは、打者としても超一流、投手としても超一流の成績を同時に残していることである。しかも、ほとんど休養日を取らず、ほぼフル出場でである。

昨年、ヤンキースのアーロン・ジャッジが62本塁打、131打点、打率.311、OPS1.111でMVPを獲得したが、私は大谷が残したある記録の方が、よっぽど価値が高いと思っている。それは、「規定打席数」と「規定投球回数」の両方を同時に達成したことだ。これは、メジャーリーグが近代野球になった1901年以降初めての快挙である。

「規定数」に到達することがなぜ重要かというと、もし「規定数」に到達していないと、打率や防御率など、「率」を評価対象とする成績が公式に認められないからである。いくら打率4割を打っていたとしても、「規定打席数」に達していなければ「4割打者」として認められないし、首位打者になることもできない。

メジャーリーグでの「規定打席数」は502打席であり、これは全試合最低3.1回打席に立たなければ到達できない数字である。「規定投球回数」は162回であり、これは毎試合6回をきっちり投げて27試合に登板しなければ到達できない数字である。この二つの記録はもちろん怪我などで長期離脱すればほとんど手の届かないデリケートな記録である。

ちなみに、大谷は昨シーズン、投手として28試合に先発し、166回投げているが、「規定投球回数」についてはぎりぎりの達成だった。これは仕方のないことで、大谷は先発ローテンションの中軸として、中5日又は中6日の登板ペースを守らなければならず、このペースで行くと年間28登板が限界である。この28登板の中で162回以上を投げるためには、すべての試合で少なくとも平均6回以上を投げなければならい。分業制が進んだ今のメジャーリーグでは先発投手に100球の球数制限があり、また、早いイニングで打ち込まれ降板することも加味すれば、今のシステムで162回以上を投げるのは至難の業であることがわかるはずだ。しかも、大谷は先発登板以外の試合では打者として129試合にも出場しているのだ。出場機会が増えればそれだけ怪我のリスクも高まるわけで(ちなみに、今シーズンのエンジェルスは現在、トラウトを始め17人が故障者リストに入っている惨状である)、そんな状況の中で、打者としてエンジェルスの主軸を任されながら、この162回という「規定投球回数」を達成したのは、大袈裟ではなく、奇跡としか言いようが無い偉業なのである。

もちろん、ジャッジの成績はMVPに値する素晴らしいものではあるが、ナショナルリーグに目を転じれば、過去に本塁打を60本以上打った選手はバリー・ボンズを始め複数人いる。大谷が記録した「規定打席数」と「規定投球回数」の同時達成は、あのベーブ・ルースでさえ到達しえなかった唯一無二の記録という意味で、もっと評価されてしかるべきものと言わざるを得ない。しかも、大谷は昨シーズン、15勝(4位)、219奪三振(3位)、防御率2.33(4位)の投手成績に加え、本塁打を34本(4位)も放っているのだから。

おそらく、大谷は今年も「規定打席数」と「規定投球回数」の両方を達成するだろう。もうそれだけで十二分にMVPなのだが、7月末時点で、上記のようなとんでもないスタッツを叩き出している今シーズンは、もうすでにメジャーリーグのMVPという枠を遥かに超え、メッシやフェデラー、さらにはレブロン・ジェームズやタイガー・ウッズなどの世界的アスリートと肩を並べる存在になっているのではないだろうか。そして、大谷翔平に対する高い評価は大谷個人だけに留まらず、ベースボールの世界的普及につながっていく可能性がある。世界的に普及しているサッカーやテニスなどに比べ、アメリカの影響力が強いカリブ海地域やアジアなど、一部の地域にしか普及しなかったベースボールを、「世界的なスポーツ」へと導いてくれるのが大谷翔平なのではないかと期待する。

その大きな契機となるのが、このオフシーズンでの大谷翔平の「歴史的契約」である。先日NBAのジェイレン・ブラウン選手が、5年で3億400万ドル(約428億円)のNBA史上最高額の契約をしたが、大谷には是非、10年10億ドル(約1,400億円)という、今までどのスポーツ界でも為しえなかった、スポーツ史上最高額の契約を果たしてもらいたい。そしてそのインパクトが世界中の子供たちに届き、大谷翔平に憧れる子供たちが増え、ベースボールが世界中に普及し、WBCなどの国際大会がサッカーのワールドカップに匹敵するぐらいのイベントになってくれたらと思う。

何だ、この映画は!?「RRR」を観てきました!

2023-07-11

(ネタバレにご注意ください)

先日、遅ればせながら、インド映画「RRR」を観てきました。とにかく、とにかく凄かったです!!  上映時間は3時間もあるのですが、最初から最後まで全く飽きることなく、スクリーンに釘付けでした。

特に冒頭、主人公の一人、ラーマが、何千人もの群衆の中に独り飛び込んで暴徒の首謀者を追い詰めるシーンの迫力はえげつなく、ラーマという主人公の人間離れした不死身さに圧倒され、このシーンで一気に「RRR」の世界観に引き込まれました。

それ以降も、ド迫力なアクションシーンの連続で、まったく息つく暇もありません。ただ、「RRR」を観て強く印象に残った点は、アクションシーンの凄さだけでなく、インド映画特有の歌やダンスのシーンが随所に散りばめられ、今まで観たどのアクション映画とも違う世界観を持っていたことです。そして、この独特の世界観を纏ったド派手なアクションシーンが、3時間にも渡り怒涛の如く押し寄せてくるので、脳と心臓のどきどきが止まらず、観終わった時には得も知れぬ高揚感に包まれるのです。とにかく「凄い!」としか言いようが無く、まさに、「何だ!この映画は!?」なのです。

実は、私が「RRR」を観ようと思ったきっかけは、「RRR」が来年、宝塚歌劇団・星組の演目に採用されることが決まったからです。ただ、噂では「RRR」が、とんでもないアクション映画だと聞いていたので、「えっ!本当に宝塚で舞台化できるの?」と俄かには信じられませんでした。だから、宝塚首脳陣が「RRR」のどこに興味を持って、何の目的で採用したのかを、「RRR」を実際に観て確かめたかったのです。

そして、観終わった上で、私なりに勝手に推測した、「RRR」の採用理由は次の三つです。

一つ目は、来年が宝塚歌劇110周年にあたるので、話題性のある作品をやりたかった。

二つ目は、アカデミー賞・歌曲賞にも輝いた「ナートゥダンス」を宝塚屈指のダンサー、礼真琴と暁千星が在籍する今の星組でやりたかった。

三つ目は、友情、使命、愛という「RRR」のテーマが宝塚歌劇にぴったりだから。

確かに「RRR」の構造自体が「宝塚的」で、ダンスシーンや歌い上げるシーンが多く、エンドロールでは宝塚と同じくフィナーレダンスまで付いています。このフィナーレダンスは宝塚歌劇に特徴的な演出手法の一つで、芝居の内容が喜劇であろうが悲劇であろうが、その出来が良かろうが悪かろうが、最後に出演者全員が芝居とは一線を画して歌い踊ることで、観客を一種独特の幸福感に導く効果があるのです。悲劇なら観客の悲しみをクールダウンさせ、ハッピーエンドのお話なら観客の幸福感をより一層膨らませてあげるといった具合です。喩えるなら、フルコースの最後に出てくるデザートのようなもの。「RRR」のフィナーレダンスにもこの宝塚のフィナーレダンスと同じ効果があるのではないでしょうか。

また、「RRR」は「虐げられる者たちの怒り」や「友情と使命のどちらを選ぶべきかの葛藤」をテーマにした勧善懲悪の物語で感情移入しやすく、ラストシーンへ向けての「カタルシス」が醍醐味の映画ですが、「宝塚歌劇」もまた「身分や立場の違いによって生じる試練を乗り越えようとする男女の愛」がテーマの悲恋物や恋愛成就型の「カタルシス」を味わえる作品が多いのが特徴で、「RRR」と「宝塚歌劇」は、その扱うテーマの面でも類似性が高いのかもしれません。

宝塚がどのようなシステムで上演作品を選定するかは全くわかりませんが、一つ言えることは、作品選定の担当者がこの「RRR」という映画の持つ圧倒的なパワーとその普遍的なテーマに感情を揺さぶられ、心を動かされたことだけは間違いないでしょう。

ただし、「RRR」がどれだけ話題性があり、宝塚との類似性が高く、宝塚での舞台化が魅力的だからと言って、「RRR」で展開されるアクションシーンを宝塚の舞台で再現できるかどうかはまた別の問題です。印象に残っているどのシーンを取っても生の舞台で再現するのは難しそうなものばかりです。例えば、「映画の冒頭、ラーマが何千人もの群衆の中にたった一人で飛び込んで首謀者を捕まえる格闘シーン」、「ビームが猛獣を捕獲しようとして獰猛な虎と対峙するシーン」、「鉄橋の火災事故で炎の渦に巻き込まれる少年をビームとラーマがロープにぶら下がって救出するシーン」、更に「トラック一杯に猛獣を詰め込みイギリス総督府を襲撃するシーン」など、数え上げたらきりがないのですが、スクリーンから伝わるこれらシーンの物凄い迫力は、VFXやワイヤーアクションなどの特殊効果、さらにはダイナミックなカメラワークや編集技術など、舞台では採用し難い、映画ならではのテクニックの賜物だからです。

そして、これらのアクションシーンがあるからこその「RRR」とも言えるわけで、このアクションシーンをバッサリ省略してしまっては、もう「RRR」ではありません。「神は細部に宿る」と言われますが、アクションシーンのひとつひとつが「RRR」の独特の世界観を形成していて、それこそがこの映画の感動の核心であり、それが損なわれてしまっては、「RRR」を宝塚の演目に選んだ甲斐がありません。

果たして、宝塚のスタッフはどんな手を使って、「RRR」の世界観を維持しつつも、この大スペクタクル・アクション映画を宝塚の舞台に合わせ再構築していくのでしょうか。

とにかく、「RRR」の舞台化については興味が尽きませんが、宝塚歌劇にご興味ない方も、「RRR」自体はめちゃくちゃ面白い映画なので、是非一度、映画館で観てください。そして、その勢いで、宝塚歌劇にも興味を持ってくれたら嬉しい限りです。

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