大谷翔平はベースボールを世界のスポーツに変える

2023-08-01

先日、大谷翔平は、ダブルヘッダーの1試合目に完封勝利をし、そして、その40分後に行われた2試合目に2打席連続の本塁打を放った。これはメジャー史上初の快挙である。

大谷がメジャーリーグで活躍し始めてから、何度、「メジャー史上初の快挙」という言葉を耳にしただろう。

現時点での、大谷の本塁打数は両リーグ最多の39本で、年間60本ペースで量産している。しかも、投手として9勝を挙げ、奪三振数は既に150を超えている。これらの数字を見ただけで、彼がとてつもないことをやっていることは誰の目にも明らかだが、彼の成績をもう少し詳しく見ていくと、そこに並ぶ数値の凄さにわれわれは更に驚愕させられる。

そこで、2023年7月31日時点での、大谷翔平のスタッツを見てみよう。

【打撃成績】

打率.305(4位)、本塁打数39(両1位)、打点81(2位)、得点81(2位)、安打数120(3位)、塁打数268(両1位)、三塁打数7(両1位)、四球67(1位)、出塁率.407(1位)、長打率.680(両1位)、OPS1.087(両1位)、打席数472(4位)、盗塁数12(22位)

【投手成績】

防御率3.431(11位)、勝利数9(7位)、奪三振156(3位)、勝率.643(10位)、奪三振率11.64(2位)、被打率0.185(両1位)、完封1(両1位

(※カッコ内の順位はアメリカンリーグの順位。ただし、両とあるのは両リーグ合わせた順位)

まず打撃成績だが、両リーグ合わせての1位が、本塁打数39、塁打数268、三塁打数7、長打率.680、OPS1.087の五部門、アメリカンリーグ1位が四球数67、出塁率.407の二部門、合計7部門で1位なのだ。アメリカンリーグのみならず、両リーグ30チーム、レギュラー打者約270人の頂点に、5部門にも渡り君臨しているのが大谷翔平という男なのである。しかも、打者を評価する上で最も重視されている数値、OPS(出塁率と長打率を足した数値)が両リーグを通じて1位なのである。OPSはチームの勝利に最も貢献した打者をできるだけ正確に表す数値として、メジャーリーグではかなり以前から採用されている。投手である大谷が、最高の打者の証OPSで、両リーグ1位というのが、本当に、本当に凄いことなのだ。ちなみに、あのイチローがシーズン最多安打262を記録した2004年のOPSでさえ、0.869に過ぎない。

これだけの数値を残せば、打者単独でも十分MVPに値する成績だが、二刀流の大谷はその上に、まだ、投手成績を加味しなければならない。

投手成績は、今年、ピッチクロックの導入や牽制球の制限、更には極端な守備シフトの禁止など、投手に不利となるルール変更が行われたせいか、勝利数15、防御率2.33を記録した昨年ほどの数値ではないが、しかし、どの部門もほぼ10位以内であり、その中でも奪三振率11.64の2位、そして、被打率0.185の両リーグ1位は出色の数値である。被打率とは投手がヒットを打たれる率で、数値が低いほど良い。被打率が0.185ということは、つまり、10人の打者に対して1.85人にしかヒットを打たれないということである。両リーグ30チーム、約180人の先発投手の中で最もヒットを打たれる確率の低い投手が大谷なのだ。

大谷の凄さは、打者としても超一流、投手としても超一流の成績を同時に残していることである。しかも、ほとんど休養日を取らず、ほぼフル出場でである。

昨年、ヤンキースのアーロン・ジャッジが62本塁打、131打点、打率.311、OPS1.111でMVPを獲得したが、私は大谷が残したある記録の方が、よっぽど価値が高いと思っている。それは、「規定打席数」と「規定投球回数」の両方を同時に達成したことだ。これは、メジャーリーグが近代野球になった1901年以降初めての快挙である。

「規定数」に到達することがなぜ重要かというと、もし「規定数」に到達していないと、打率や防御率など、「率」を評価対象とする成績が公式に認められないからである。いくら打率4割を打っていたとしても、「規定打席数」に達していなければ「4割打者」として認められないし、首位打者になることもできない。

メジャーリーグでの「規定打席数」は502打席であり、これは全試合最低3.1回打席に立たなければ到達できない数字である。「規定投球回数」は162回であり、これは毎試合6回をきっちり投げて27試合に登板しなければ到達できない数字である。この二つの記録はもちろん怪我などで長期離脱すればほとんど手の届かないデリケートな記録である。

ちなみに、大谷は昨シーズン、投手として28試合に先発し、166回投げているが、「規定投球回数」についてはぎりぎりの達成だった。これは仕方のないことで、大谷は先発ローテンションの中軸として、中5日又は中6日の登板ペースを守らなければならず、このペースで行くと年間28登板が限界である。この28登板の中で162回以上を投げるためには、すべての試合で少なくとも平均6回以上を投げなければならい。分業制が進んだ今のメジャーリーグでは先発投手に100球の球数制限があり、また、早いイニングで打ち込まれ降板することも加味すれば、今のシステムで162回以上を投げるのは至難の業であることがわかるはずだ。しかも、大谷は先発登板以外の試合では打者として129試合にも出場しているのだ。出場機会が増えればそれだけ怪我のリスクも高まるわけで(ちなみに、今シーズンのエンジェルスは現在、トラウトを始め17人が故障者リストに入っている惨状である)、そんな状況の中で、打者としてエンジェルスの主軸を任されながら、この162回という「規定投球回数」を達成したのは、大袈裟ではなく、奇跡としか言いようが無い偉業なのである。

もちろん、ジャッジの成績はMVPに値する素晴らしいものではあるが、ナショナルリーグに目を転じれば、過去に本塁打を60本以上打った選手はバリー・ボンズを始め複数人いる。大谷が記録した「規定打席数」と「規定投球回数」の同時達成は、あのベーブ・ルースでさえ到達しえなかった唯一無二の記録という意味で、もっと評価されてしかるべきものと言わざるを得ない。しかも、大谷は昨シーズン、15勝(4位)、219奪三振(3位)、防御率2.33(4位)の投手成績に加え、本塁打を34本(4位)も放っているのだから。

おそらく、大谷は今年も「規定打席数」と「規定投球回数」の両方を達成するだろう。もうそれだけで十二分にMVPなのだが、7月末時点で、上記のようなとんでもないスタッツを叩き出している今シーズンは、もうすでにメジャーリーグのMVPという枠を遥かに超え、メッシやフェデラー、さらにはレブロン・ジェームズやタイガー・ウッズなどの世界的アスリートと肩を並べる存在になっているのではないだろうか。そして、大谷翔平に対する高い評価は大谷個人だけに留まらず、ベースボールの世界的普及につながっていく可能性がある。世界的に普及しているサッカーやテニスなどに比べ、アメリカの影響力が強いカリブ海地域やアジアなど、一部の地域にしか普及しなかったベースボールを、「世界的なスポーツ」へと導いてくれるのが大谷翔平なのではないかと期待する。

その大きな契機となるのが、このオフシーズンでの大谷翔平の「歴史的契約」である。先日NBAのジェイレン・ブラウン選手が、5年で3億400万ドル(約428億円)のNBA史上最高額の契約をしたが、大谷には是非、10年10億ドル(約1,400億円)という、今までどのスポーツ界でも為しえなかった、スポーツ史上最高額の契約を果たしてもらいたい。そしてそのインパクトが世界中の子供たちに届き、大谷翔平に憧れる子供たちが増え、ベースボールが世界中に普及し、WBCなどの国際大会がサッカーのワールドカップに匹敵するぐらいのイベントになってくれたらと思う。

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