世紀の対決!羽生vsカスパロフ

2014-11-29

昨日11月28日、将棋の羽生名人とあの伝説のチェスプレーヤー、ガルリ・カスパロフがチェスで対戦しました。

羽生名人は25年以上も将棋界の頂点に君臨する天才棋士です。平成8年には史上初の公式戦7大タイトル独占を達成したことで、将棋ファンならずともご存じの方が多いと思います。

一方、カスパロフは若干22歳の史上最年少でチェスの世界チャンピオンとなり、その後15年間もチャンピオンの座を保持し続けた、こちらもチェス界のレジェンドです。1997年にIBMが開発したディープブルーというコンピューターソフトと対戦し、1勝2敗3分けとなり、「世界チャンピオンがコンピューターに敗北する」ということで有名になりました。現在は現役を引退していますが、それでもまだ世界のトップクラスの実力の持ち主と言われています。

この二人がなんと、昨日、東京の六本木で対戦したのです。

経緯は、ニコニコ動画のドワンゴが主催する「将棋電王戦」のプレイベントのサプライズゲストとして来日し、更にサプライズイベントとして企画されたものです。コンピュータソフトディープブルーと対戦したカスパロフを「将棋電王戦」のサプライズゲスト(電王戦の先後を決める振り駒の振り手)として招待すること自体にくいですが、更に羽生名人とのチェス対決まで実現させるとは、ドワンゴの企画力の凄さに言葉がありません。

いやぁ、それぐらい羽生対カスパロフのチェス対決には意義があるのです。ネット上だけでやるには、勿体無さ過ぎる企画です。

ところで羽生名人はチェスもできるの?と疑問を持たれる方がいるかもしれませんが、二十歳を過ぎて趣味で始めたチェスにおいても、レイティングでは国内1位と、チェス界でも第一人者なのです。

対戦は2試合行われました。第1試合は白(先手)がカスパロフ、第2試合は白が羽生名人です。持ち時間は25分ずつで時間が切れると秒読みというルールです。

戦前の予想としては、羽生名人が国内1位とはいえ、やはり元世界チャンピオンには勝てないだろうというものでした。レイティングの差からしても、引き分けに持ち込めれば上出来だろうということです。

第1試合は白のカスパロフが先手の有利を生かし快勝でした。

第2試合は白の羽生名人がやはり先手の優位性を生かしながら後半まで優勢を保ちました。後半の要所において千日手の状況が生まれ、これは千日手の引き分けかなと誰もが思った瞬間、カスパロフが千日手を回避する勝負手を放ちました。大盤の解説者も「おおっ!」と驚いていました。チェスの常識として黒(後手)はもともと不利ですので、引き分けにできれば十分なのですが、黒のカスパロフが引分けにできるところを、敢えて勝負に出たことに一同が驚いたのです。この勝負手以降は、カスパロフが形勢をうまく逆転し、最後は元世界チャンピオンの実力をいかんなく発揮し、カスパロフの2連勝となりました。

勝負は羽生名人の2連敗となりましたが、勝敗以上に、この二人の対戦が実現したこと自体、本当に意味あることだと思います。そして、対戦後に二人の対談の席が設けられ、コンピューターとチェス、将棋について二人の意見交換がされたことも大変意義深いことだと思いました。

チェスの世界ではカスパロフがディープブルーに負けたことで、15年以上も前にコンピューターが人間を凌駕したと言われ、将棋の世界においても、今やプロ棋士でもなかなかコンピューターに勝てなくなってきているのが現状です。

コンピューターより弱い人間同士の対戦にどのような意味があるのか。そのような状況の中で棋士たちはコンピューターとどう付き合うべきか。対談ではこれらのテーマについて、示唆的な発言が相次いで出てきました。

たとえば、羽生名人は「人間に読みの盲点や死角があるように、コンピューターも万能ではなく盲点があります。人間とコンピューターがお互いを補い、コンピューターをセカンドオピニオンとして利用することで、一つの局面に対するより深い理解につながるのではないかと思います。」と発言しています。

カスパロフは「コンピューターはあくまで道具であって、人間がコンピューターの奴隷になってはいけない。コンピューターの特徴は一つのことを深く追求できることである。人間の特徴は発想力である。人間とコンピューターが互いに補うことでもしかしたら新しい発見や知恵が生まれるかもしれない。」と発言しています。

そして、こんなことも言っています。「自動車はウサイン・ボルトより遥かに速く走れますが、それでも私たちはウサイン・ボルトの走りに感動するのです。人と人との戦いに熱狂するのです。」と。以前このブログでも触れたことがありますが、プロ棋士として公式の場で初めてコンピューターに敗れた故米長邦雄も全く同じ発言をしていました。人類史上初めてコンピューターの洗礼を受けたチェスと将棋の先駆者が奇しくも同じ考えであることに、驚かされました。

この対談では、コンピューターがいくら強くなっても、結局人間同士の闘いに人は感動し、人がコンピューターにほとんど勝てなくなったとしても、チェスも将棋もその魅力を失うことはない。というのがこの二人の結論ではなかったでしょうか。レジェンド二人が言うとそれは負け惜しみではなく、人間とコンピューターの付き合い方の新たな可能性を讃えているようにも感じます。

今回のチェス対決において、最もエキサイティングだった場面は、カスパロフが千日手を回避し、敢えて勝負に出た場面です。負けるかもしれないが敢えて勝つためのチャレンジをしたのか、それともこのイベントを盛り上げようとしたのかわかりませんが、このような思考はおそらくコンピューターには無いとても人間的な思考ではないでしょうか。はからずも、レジェンド二人の対局のこの千日手の局面が、チェスと将棋の未来を暗示しているのかもしれません。

 

 

 

 

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